■キリ番 ニアピン3500/新堂周様■
BAD and BEST PARTNER / 4
「二人で旅をして、もう長いの?」 道具屋で必要な品を買い揃え、大きな紙袋を抱えて歩きながら、ユーリは横を歩くフリックを見上げてそうたずねた。 「そうだな…知り合ってから、って言うならもう四、五年経つかな。旅をし始めたのは一年も前じゃないが」 「へえ。もっと長いかと思った」 意外そうに言うユーリに興味をひかれ、「どうして?」とフリックは聞いた。 「うーん…なんていうか。お互い、相手がどういうこと思ってるのか、とか、どういう行動に出るのか、とか分かってるみたいだったから。仲いいな、って思って」 「…そうかな?」 ユーリの言葉に、フリックは首をかしげた。 確かにそうかもしれないと思う部分もある。 実際戦っている時には余計な言葉など無くても相手の次の動きや考えを読むようにしているから、そのせいだろうか。 だが、そういった事から離れ、まったくの日常生活の中では、未だビクトールの行動パターンが読めないところだって多い。多い、と言うよりもほとんど予測がつかないことをしでかしてくれるという印象のほうが強い。 そう考えると、「仲がいい」といったような関係ではないように思われる。だからと言って、「ではどういう関係と言えるのか」、と聞かれると返答に困ってしまう。戦友というとなんだか大げさで。だからといって相棒というには――― 「…ねえ、フリックさんってば!」 くいっと軽く袖口を引っ張られて、ようやくフリックは我に返った。きょろきょろと辺りを見回すと、先程からまったく進んでいないことに気が付く。どうやら考えにはまってしまって気が付かないうちに立ち止まってしまっていたようだ。 「もぉ、うんともすんとも言わなくなるし、空を見上げて動かなくなっちゃうからどうしたかと思うじゃない」 「あ、すまんすまん」 慌ててユーリに謝ると、袋を抱え直した少女は「ビクトールさんが待ってるから早く行きましょ」と歩き出した。 今度は立ち止まらないようにフリックもそれに続く。 狭い村の中、たいして歩くことなく宿屋の前までたどり着いた時、ユーリは足を止めてフリックを振り返った。 「そんなに悩むほどのことじゃないと思うんだけど。私が言ったことが何か気に障っちゃったのならごめんなさい」 真剣な顔をして急に謝るユーリに、フリックは慌てて首を横に振った。 「いや、そんなことはまったくない。ユーリが気にすることは何も無いさ」 「でも……」 「いや、本当に。ただ―――、今までそういうこと考えずに来たな、って思ってただけだから」 旅に出てからずっと、気にもしないできた、自分達の関係。ユーリに指摘されるまで、気付かなかったけれど。 あの砂漠を越える旅の途中、ずっと胸に抱いていた想いがよみがえる。 果たして、自分は背中を預けてもらえるほど頼りにされるようになっただろうか、と。 宿屋の扉を押し開くと、テーブルに向かって何かを書いていたビクトールが顔を上げた。 「おう、おかえり。遅かったなぁ」 にやりと笑うビクトールに、「まあな」と苦笑してフリックは曖昧な返事を返す。ユーリも特に何も言わずに、「お待たせ」と言って、買ってきたものが詰まった紙袋をビクトールが座るテーブルの上に置いた。 その時にちらりと見えたものに興味をひかれ、ビクトールの手元を覗き込む。その眉が険しく寄せられた。 「………ねえ、ビクトールさん。これ、ナニ?」 どことなく機械的な調子で言うユーリに気付いた様子もなく、「お?これか?」とビクトールは先程まで何やら書き込んでいた紙をひらり、と持ち上げた。 フリックもそれが何か気になって、袋を抱えたまま、ビクトールたちに歩み寄る。ビクトールの手からひょいとそれを取り、まじまじと眺めて――― 「……なんだ、これ」 思わずそう呟いた。波線と歪んだ円が大胆に書かれていて、ところどころミミズののたくったような文字が書き込まれている。 ビクトールの書く字を見慣れているフリックには、これが文字だと認識できるが、初めて見たユーリにはおそらく他の波線と同じ物にしか見えないだろう。だが見慣れているといっても解読は慣れていないフリックは、ビクトールが何を意図してこんな物を書いたのか理解できなかった。 「何って、地図だよ、地図。他のなんだって言うんだ?」 「………もしかして、さっき言ってた”風の洞窟”の内部の地図か?」 「おう!」 自信たっぷりに頷いたビクトールを「そんな馬鹿な」という顔でユーリが見た。 「暇だったから落書きしてたとかじゃないの?」 「ら、落書き…って、おいおい、ひどいぜそりゃぁ」 ストレートなユーリの言葉に、ビクトールが悲しそうに言う。しかし、ユーリは厳しかった。 「だって地図に見えません!百万歩譲って地図だと認めても、私にはさっぱり解読できないです!」 「うううう、そこまで言うのか……。おい、お前は読めるよな、フリック」 すがるように見つめられ、フリックは心が動いたが。 「悪い。俺にも読めん」 嘘を付くにはあまりにもそれは酷かった。 「お前なぁ…」 がっくり肩を落とすビクトールに「いいから、ちゃっちゃと説明してよね」と容赦なくユーリはフリックの手から地図もどきを引き抜いて、テーブルの上に置いた。 しぶしぶと正面に座るユーリに説明しはじめたビクトールを見ながら、フリックは呆れたような溜め息を付いた。 翌朝。 こんこん、と軽く扉を叩く音がする。 愛剣を腰に吊るしていた手を止め、フリックは「開いてるよ」と扉に向かって声をかけた。 「おっはよー!」 元気のいい声と共に、がちゃりと扉が開かれ、ユーリが部屋に入ってくる。 「おはよう、ユーリ」 「……あれあれ?フリックさんだけ?ビクトールさんは??」 部屋に入るなりあたりを見回すユーリに、フリックは苦笑しながら足元に転がしていた荷物を手にした。 「あいつはもう出たよ。日が暮れてからヘビ探しなんてしたくないから、とか言ってな」 「ふーん、そうなの?」 ユーリの言葉に頷きながら、フリックは明け方のことを思い出していた。 『…おい、フリック。起きてくれ』 肩をゆすられながら声をかけられ、フリックはすっと目を覚ました。 『なんだ、ビクトール。早いじゃないか、お前にしては』 職業柄、寝起きはいいほうである。すぐに布団から半身を起こしたフリックは、寝癖のついた髪の毛を抑えながらようやく明るくなりかけてきた部屋の中に立つ相棒を見上げた。 すでに身支度を整え、背には星辰剣がある。昨日買ってきた食料品や薬などが入った荷物を肩に担いでいた。 まさに、今すぐ出発する、という格好のビクトールに、フリックはたずねながらも理由が分かっていた。 『とりあえず、俺のほうはヘビさえ見つけりゃ早く終わるだろうから、とっとと出て、なるべく早くお前らに追いつくようにする』 『ああ。あんまり急がなくても大丈夫だとは思うが―――お前が心配しているのは、ユーリのことだろ?』 半ば確信しつつもそう問うと、ビクトールは無言で頷いた。 『なんか、あいつ無茶しそうな気がしてしょうがねぇんだ。万が一、龍が洞窟にいたら、つっこんでいきそうな感じんだよな』 『それは俺も感じてた。……一緒に材料を集めてた友達の話しを聞いた時にな』 『……なんかあったっぽいよな。本当に龍がいたら、お前一人であいつをかばいつつ戦う、ってのはけっこう厳しいだろ?しかも、あいつ、人の言うこと素直に聞きそうもないし』 その言葉、ユーリが聞いたら怒るぞ、と思いながらもフリックは頷いた。 『悔しいけれど、そうだな』 素直に頷くフリックに、珍しいものでも見るような顔おしながら、ビクトールは口を開いた。 『なんだか、えらく素直だな、青雷さん?』 そのからかい口調に一瞬むっとして何か言おうとしたフリックだったが、ふと思い付いたことを口にした。 『背中を預けて戦うこと、覚えちまったからな』 誰がそういうことをおぼえさせたと思ってるんだ、という目でビクトールを見上げ、飄々と答えた。 ビクトールはその言葉にか、眼差しにか、一瞬ひるんだ様子を見せ――― それから、うれしそうに笑った。 『使える背中は使ってやればいいのさ。じゃあな、行ってくるぜ―――相棒』 フリックの頭をくしゃりとかき混ぜ、ビクトールは部屋を出ていった。 先ほどのビクトールのように、突然の言葉と行動に驚いたあまり、反応を返せなかったフリックは、扉が閉まる音で我に返った。 のろのろと先ほど触れられた頭に手をやる。 『……あのやろう。俺は子供じゃないぞ』 言葉とは裏腹に、自分の口調が嬉しそうなのに、フリックはしっかりと気がついていた。 手にした荷物を肩に担ぎ、フリックは入り口で待つユーリに笑いかけた。 「さあ、俺達も行こうか?」 「ええ。あ、リタさんに頼んで、馬を貸してもらったの。もう下に出してもらってるけど……フリックさん、」 「ん?なんだ?」 真剣な顔でフリックを見るユーリに、首をかしげながら問い返す。 「……朝ご飯、どうする?」 ユーリの言葉に、思わず笑いながらフリックはユーリの頭を軽くぽんぽん叩いた。 「ユーリはもう食べたのか?」 「うん、私は家で食べてきた。ご飯食べるなら、リタさんに頼んでくるけど―――」 どうする?と瞳で問い掛けてくるユーリに、フリックはゆっくり首を横に振った。 「いや、俺はどっちかっていうと朝ご飯は食べないクチだから大丈夫だ。……ビクトールと違ってな」 「あはは、ビクトールさんなら『まずは腹ごしらえだ!』とか言いそうよねー」 「当たってるなあ、それは。まったく、あいつといると食費がかさんでしょうがないんだよな」 「フリックさんは食べなさすぎかも、とか思うけど?」 「……あの馬鹿熊と比べたら誰でもそうじゃないか?」 鋭いところを突かれ、一瞬口ごもってしまったフリックだった。 いつのまにやら会ったばかりのユーリにさえ「大食い」のレッテルを貼られてしまったビクトールは、その頃既に森の入り口にまで到着していた。 歩いたら半日はかかる距離だが、宿屋の主人に馬を借りられたので、三時間ほどでたどり着けたので。 「よーし、ここからはお前さん、つらいからなあ。ここで待っててくれよ?」 栗毛の鬣をなでてやりながら、ビクトールは砂糖の塊を手のひらに乗せ、馬に差し出す。 それをおいしそうに口に入れた馬の首を軽く叩き、手綱を近くの木の枝に引っ掛けた。 荷物を背負いなおし、ほんの数日前に後にした森に、再び足を踏み入れた。 相変わらず、木々が生い茂り、鬱蒼とした雰囲気の森である。 「ま、涼しくていいけどな」 独り言を呟きながら、ビクトールは奥へと足を進めた。 ユーリに聞いた話によれば、森に入り、二つ目の大きな分岐点で右の平らな道を真直ぐに進めば、泉がある方角へいけるということだ。 非常にアバウトな説明にビクトールはせめて地図はないのか、と聞いたが、あっさり無いという答えが返ってきた。 そもそもこの森は意外に深く、地元の人間でもあまり立ち入らないようなところらしい。 ビクトールが現在探しているジャイアントホワイトスネークが出没するような場所であるし、最近では野盗団も横行しているので、なおさら入ってこないそうだ。 しかし、森の反対側にある街に出るときには、ここをとおらざるを得ないのだ。その場合は獣道を少し舗装した程度ではあるが、山越え道が一本通っているので、それを使っているとのこと。 その道は、逆側から来たビクトールたちが通ってきた道のことだ。 ユーリは薬の材料を取るために、道を外れた場所まで何度か行ったことがあるのでおおよその場所を知っていたのだ。 ユーリの言葉だけを頼りに、ビクトールはあたりを見回しつつ、下草をざくざくと踏みしめながら奥へ奥へと向かった。 歩くこと一時間ほど。 「おー、ここかぁ」 ようやく二つ目の分岐点にたどり着き、ビクトールはふうっと溜息をついた。 左に行くと緩やかな上り坂、そして右の道はさらに鬱蒼とした森の中に続く獣道だ。 「なんだかいかにも何か出てきそうな道だな」 右肩に担いでいた荷物を左に担ぎなおし、ビクトールは空を見上げた。 木々の間から見える太陽は、すでに南を過ぎ、すこしだけ傾いてきている。 朝早く出たにもかかわらず、もうこの時間だ。できれば暗くなる前にヘビを見つけてしまいたい。 ビクトールは足早に右の道を進み始めた。 今まで通ってきた道も、そんなに足場がいいとはいえなかったが、この道に比べれば遥かにましだと思わざるを得ない。それほどまでに、草に覆われ、荒れ果てた道だった。平らなのが唯一の救いか。 だが、だんだんと下草が長くなり、手で掻き分けながら進まなければいけない状態になってくると、そんなささいな救いなど、脳裏からきれいさっぱりと消え去ってしまった。 手を切らないように、袋から手袋を出して付け、がさがさと両手で草を掻き分けながら進みつつ、ビクトールはいらいらしながら毒づいた。 「だああっ!うっとおしい森だぜ畜生!なあっ…っと、」 うっかりいつもの癖で後ろを振り向きかけたビクトールは、そこでぴたりと足と手を止めた。 言葉を発しかけた口を開いたまま、少しの間、立ちつくす。そしておもむろに手を頭にやり、溜息をついた。 「……習慣ってのは、こわいもんだなぁ」 後ろにフリックがいるものだと思って声をかけそうになってしまった自分を苦笑する。 いつも隣に立ち、同じ方向を向いていたフリックを思い出す。 時には背中合わせに互いの後ろを守り合いながら、目を合わすこともなく次の行動をあわせることなど、今では造作もなくなっていた。 別にそのような状態が長いわけではない。 考えてみたら、一緒に旅をするようになったのはここ一年ほどのことだ。 解放戦争の最中、お互いを認め合い、共に戦うようになったのはいつからだろう。 そして、そのことに戸惑いを覚えなくなったのは、いつからだろう。 そもそもビクトールは、フリックという相棒を得るまでは常に一人で戦ってきた。 人と接するのが苦手というわけではない。むしろ、人となじむのは得意なほうだ。 だが、決して背中を預けるほどまで、親しく付き合うことがなかった。 それは、村を失ってから、ビクトールが己に課してきた制約だった。 二度も同じ喪失感を味わいたくない。ただそれだけの思いから、人と深く接することをやめた。 それができなくなったのは、解放軍に参加した頃からだ。 人を引っ張っていく立場にあり、実際その力があるのに、どこか人を信じやすい女性と。 その女性を守るために、強くあろうとする青年と。 二人よりそう姿を見て、見守っていきたい、と思ってしまった。 それがきっかけだ。 もしかしたら、自分が失ってしまった大切な人が今も生きていたら、彼らのように共に守り、守られ、共に歩んでいけたかもしれない、という思いがあったのだろう。 きっとその叶えられなかった未来を、彼らに託したくなったのだ。 その願いもむなしく、戦いの最中、女の命は失われ、残された男はただ彼女の夢を果たすためだけに前へ進みつづけた。そして彼女の夢が叶うと、自らの使命が終わったと言わんばかりに、崩れ落ちる城の中、最後まで戦い続けた。 その時、ビクトールは思ったのだ。 こいつを死なせたくない、と。何が何でも、共に生き延びると。 それは、一度全てを失い、守るものを、頼るものを失うことに怯えている自分の中で芽生えた、新たな気持ちだった。そんな思いを抱かせる人間に、ようやくビクトールは出会えたのだ。こんなところで、失いたくなどなかった。 崩れ落ちる城の中から死に物狂いで脱出し、生きる気力を失ってしまったフリックになんとか前を見てほしくて必至に説得し――― そして、共に旅立った。 それからは、フリックに背中を預けることに、なんのためらいも恐れもない。 それは、信じているからだ。 フリックは、ビクトールを置いて勝手に死んでいってしまうほど、やわではないということを。 最愛の人を失っても、前を向いて歩こうとしているフリックの心の強さを。 「……俺も、かなり自分勝手だよなぁ」 今考えると、その考え方はひどく独りよがりなものだと思う。 自分を置いていく心配がないから、一緒に居るのか、と。 共に旅に出た当初は、その思いしか持っていなかったように思う。 だが、今は――― 『このうつけ者がッ!呆けてる場合か!!』 唐突に響いた声にビクトールが我に返り、その場から飛び退くのと、頭上から何かが飛び掛ってくるのは同時だった。 「うわっ!?なんだあっ!?」 飛び退きつつ、荷物を足元に放り投げ、背中の剣を勢いよく鞘から抜く。 頭上から落ちてきたのは、巨大なヘビだった。 それは、この間森を抜けるときによく見かけた体長一メートルほどのホワイトスネークに比べ、少なくとも三倍ほどの大きさのヘビだった。太さも倍以上はある。 それが威嚇の体勢をとり、赤い舌をチロチロと動かしながら、ビクトールを見下ろしていた。 あのままぼうっとしていたら、なす術もなく踏み潰されていただろう。 声をかけられるまで、近づいてくる気配に気づかないとは傭兵失格だな、などと思いながら苦笑した。 そのビクトールに答えるように、手元の剣が唸り声を上げた。 『熊のくせに考えになぞ浸るな!愚か者!!』 「ひさしぶりに喋ったと思ったらいきなり説教かよ。これだから年よりはいやなんだよなあ」 『ぬかせ!私が声を掛けなかったら、お前など醜く圧死していたというのに、その暴言か!』 「へぇへぇ、それについちゃあ、感謝してるぜ。すまないな―――星辰剣」 二十七の真の紋章のひとつ、夜の紋章の化身―――星辰剣は、ビクトールの感謝の言葉に、とりあえず怒りを納めたらしい。 解放戦争が終わってからしばらく沈黙しつづけていた剣が急に喋ったことに驚きながらも、ビクトールは目の前の敵から注意をそらさなかった。 「畜生……いくら”ジャイアント”っつーからって言ったって、ここまでデカくなくてもいいじゃねえかよ!」 舌打ちしつつ、内心では自分の甘さに呆れていた。 さすがに三メートルほど上空から見下ろされると、かなりの圧迫感がある。 ただ、ここが森の中であることが幸いした。これだけの巨体では、木が多くて、そこまですばやい動きができないだろう。注意すべきなのは、先ほどのような上空からの不意打ちか。 しかし。 「鱗、硬そうだなあ…」 ヘビの表面をびっしりと覆う白い鱗は、木漏れ日を受けて金属のように鈍い光を放っている。 「剣、折れやしねぇだろうな」 ぼそりとビクトールが呟くと、『失敬な!』という抗議の声があがる。 『私をその辺の剣と一緒にするなと何度言ったらわかるのだ、この脳みそまで熊男が!』 「そう言うんだったら、たまには手伝えよなあ」 『ヘビごときに、私の力を使えと言うのか、お前は!!』 「ヘビなら火に弱そうだし…確か、火ぃ出せただろ?」 星辰剣の文句に耳も貸さずに、ビクトールはちゃきっと、正眼に剣を構えた。 「ということで、なんとか鱗のすきまに剣をぶっさすから、内部から焼いてくれよ」 『人の話を聞かんか―――っっっ!!』 人間なら頭から湯気を出さんばかりの怒気をはらんだ声で星辰剣が怒鳴るのを聞きながら、ビクトールは正面にそそり立つ巨大なヘビに、一歩足を踏み出した。 |
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