ア シ タ バ


 「・・・で、俺に用って?」

 クサナギでの会議とやらの後、俺は艦長室に呼び出された。
 「あら、もう分かってるんじゃないかしら」
 そう言って、目の前の女はふふっと笑った。
 彼女の横には、さりげなく守るかのように、金髪の背の高い男が立っている。


 アークエンジェルの艦長さんは、どえらい美人だ。
 コーディじゃねぇの、と思うほど整った顔立ちと―見事なナイスバディ。
 俺みたいな捕虜にもまるで普通に接するし、言葉の端々から「いい人」オーラが滲み出ている。
 艦長としての素質云々で色々言われてるらしいが、俺から見りゃ十分だと思う。
 俺たちクルーゼ隊の攻撃を防ぎ続けてきたって事実は、―伊達じゃない。
 けどまあ、さすがに、最初に艦長が女だって聞いたときは驚いた。
 コーディに男女差別なんて存在しないはずなのに、何故か気になるのは―野生の本能なのだろうか。


 「まぁね。これから、のことだろ?」
 そう答えると、艦長はしっかりと頷く。
 「ええ、そうよ。―君は、これからどうするつもり?」
 その口調には、咎めるような響きは全くない。
 むしろ、こちらを案じているかのような―と思いかけてやめた。
 それはさすがに考えすぎってもんだ。


 正直なところ、とっくに腹は決まっている。
 艦長の柔らかそうな栗色の髪を見ていたら、ふっとあいつの姿が頭をよぎった。
 多分、あいつはいつまでだって戦うんだろう。
 何度も泣いて、傷ついて、それでも「自分はCICだ」と言い張るんだろう。

 ―バカな女。

 そうは思っても、何故か笑い飛ばす気にはなれない。
 それどころか、そのまっすぐさが―少し羨ましいとさえ思う。
 捻くれて生きることが格好いいのだと思っていた俺には、結構な衝撃だった。


 「一つだけ、言っておくわね」
 ふいに艦長の顔つきが引き締まって、先程とはまるで別人のような雰囲気になる。
 これが、戦闘中の顔ってやつなのかもしれない。
 そのいかにも艦長といった風格に、思わず姿勢を正した。


 「私たちへの同情で戦うなら、やめておきなさい」


 さして大きくも高くもない声なのに、その言葉はずしんと胸に響いた。
 同情なんかじゃない、そう否定しようとして、はたと気づく。
 「俺は・・・」
 ―何で、こいつらを助けたいって思ったんだ?
 頭の中に浮かんだ疑問は、もう一度、栗色の髪と共に確かな答えを持って浮かび上がる。


 「もちろん、あなたが戦力としてこちらに付いてくれるのは心強いわ」
 「けどな坊主。俺たちはこれからプラント相手に戦うかもしれん。―それでもいいのか?」
 それまで黙っていた男が、急に口を開いた。
 どこかで見た顔だと思ったら、時々格納庫や食堂で会う奴だ。
 知らない人間に愛想良く挨拶するような性格でもないので、言葉を交わしたことはないが。
 着ているスーツでパイロットだとは分かっていたが―そういや、名前を知らない。

 男をちらりと見上げてから、艦長はもう一度俺に向き直る。
 「それに、命の保証も出来ないの。・・・あなたもパイロットなら、よく分かっているでしょうけど」
 「ああ」
 俺だって、これでも戦場で命のやり取りってもんをしてきた。
 そして、それを楽しいとさえ思っていた。
 人生なんてゲームと同じだ、と舐めてかかっていた。

 けれど今は、それとは違うと言い切れる。

 多分、―ナチュラルに感化されて馬鹿になったのだ―とイザークなら言うだろう。
 けどもう、バカでも何でもいい。
 決して忘れることのない、あいつの取り乱した姿。
 泣き叫んで、恨んで、殺そうとして―それでも最後は俺を庇った。
 あんなに憎んでいたくせに、俺に怪我まで負わせたくせに―殺させなかった。


 「俺はただ、守りたいと思ったから―守ったんだ。だからこれからも守る。それだけだ」
 誰を、とは言わなかったが、金髪の男は「やるねぇ」とニヤリと笑った。
 「それに、今更ザフトに戻ったって、どうせまたナチュラルを殺さなきゃいけないだけだし」

 ―それくらいなら、俺は自分で戦いを選ぶ。

 そう言い切ると、艦長の目が軽く見開かれた。
 「本当に・・・いいのね?」
 念を押すような口調に、笑って答える。


 「ダメだって言われても残ってやるさ」


 艦長はしばらく無言で俺を見つめていた。
 戸惑ったようにも見えるし、嬉しそうにも見える複雑な表情。
 やがて、意を決したように彼女は口を開いた。
 「・・・ありがとう」
 そう言ったかと思うと、俺に深々と頭を下げる。
 ―おいおい、艦長さんがそんな腰低くていいのかよ。
 そうは思ったものの、それでも確かに嬉しくて、そして少し照れくさい。


 「じゃ、そゆことで。よろしくな、坊主」
 さっきからニヤニヤと俺を見ていた男に、ぽんぽんと肩を叩かれる。
 「けっ、オトコに触られて喜ぶ趣味はねーよ」
 「あっ、生意気。俺だって、わざわざ好きこのんでヤローなんざに触るかよ」
 「少佐」
 咎めるような艦長の声に、途端に男の顔が緩む。
 彼女も怒ってはいるが満更でもなさそうな態度で、ははあ、と感づく。
 ―他人の俺に気づかれるって、マズいんじゃねーの?
 なんて余計な心配もしてみたが、どうやら隠す気なんて欠片ほども無さそうだ。



 ナチュラルって、やっぱバカ。


Fin

[ aila様のコメント ]
 ディアッカ視点の、フラマリュ&ディアミリ話でした。
 いや、ミリィは出て・・・こないんですが・・・^^;
 タイトルはそのまま、「明日葉」です。

 この二組、戦後家族ぐるみで仲良くお付き合いしてそうだな〜と思います。
 喧嘩するたびに片方がお互いの家に転がり込んだりとか(笑)

 あんたたち、惚れた女の傷をこれ以上抉るんじゃないよ!
 と近所のおばさんのごとくお節介したい今日この頃。
 そしてそれぞれ二人で幸せになってください。片方だけじゃなくってね・・・。



エビで鯛を釣らせていただきました第1弾!
ええと,aila様のコメントの
「戦後家族ぐるみで仲良くお付き合いしてそうだな〜と思います。
 喧嘩するたびに片方がお互いの家に転がり込んだりとか(笑)」

に触発されて書いた三咲のSSを押し付けさせていただいたら,
「お返しに」と
「アシタバ」「アンジェリカ」の2作品を頂きました!
うひーっ幸せです♪ありがとうございます!!


[ aila様のHPへGO ]

last update 2003/11/22

※ウィンドウを閉じてお戻りください※