■キリ番 ニアピン3500/新堂周様■

BAD and BEST PARTNER

オマケ / そのぬくもりが心地よくて



『ふー、さてさて…ようやくこの腹を満たせるほど、魔力を貰えるのう…』
夜も遅くにサウスウィンドウの宿屋に着いてすぐ、ビクトールが腰から外した鞘から勝手に抜け出て、星辰剣がうれしそうにそうのたまった。
そう言えばそんなこと、約束したなとフリックは思い出して苦笑する。
かなりこきつかった感は否めないので、死なない程度には魔力をあげないとなあ、などと呑気に思っていると、ふわふわと空中に浮かび上がった星辰剣の柄をがっしりとビクトールがつかんだ。
そして何もいわずに窓側のベッドに綺麗に敷いてあったシーツをばさりと外し、それで星辰剣をぐるぐる巻きにする。
突然の行動にフリックは呆気に取られ、それを見守ってしまった。
『なっ、なにをする、この馬鹿熊……』
ふがふがっと不明瞭な罵声を飛ばす星辰剣に「うるせぇよ」とぼやき、シーツの上からさらに紐でぎゅうぎゅうに縛った。
それをどうするのかと見守っているフリックの目の前で、ビクトールは宿屋の窓(ちなみに二階)を開け放ち、その取っ手に紐をくくりつけて窓の外に星辰剣をぶら下げた。そしてさらにその窓をばたんと閉めてしまう。
そうすると、星辰剣の罵声は全く聞こえなくなった。
フリックはその一連の騒動を見終わり、ふうっと溜息をついた。
「あーあ、知らないぞ。あれ、絶対に臍曲げるぜ?」
どうするんだよ、と目で問うと、ビクトールは憮然とした顔で窓から離れた側のベッドに腰を下ろした。
「―――お前、まだつかれてんだろ。そんな時に魔力なんてやるんじゃねぇよ」
その言葉に、フリックは少し目を見張って、それから苦笑した。
「―――まあ、な。確かにそうだ。じゃあ、お言葉に甘えて少し休ませてもらおうかな―――」
そう言って、フリックはビクトールが座るベッドに歩み寄った。
「あ?どーしたんだ、休むんなら…わわっ!」
ばさばさっと身に付けていた肩当とマント、それから上着を脱いでビクトールに投げつける。マントを頭から被ってしまっておたおたするビクトールを横目で見つつ、フリックは剣だけは丁寧にベッドサイドに立てかけた。最後にブーツを脱ぎ捨てて、ビクトールが腰を下ろす寝台にもぐりこむ。
「おい、フリック―――」
「あっちはお前がシーツをはいじまったんだ。こっちで寝かせろ」
慌てるビクトールの言葉を、問答無用とばかりに遮って毛布を肩まで引っ張り上げる。
「―――それもそうか。んじゃ、俺はあっちに―――」
納得したのか頷いて立ち上がるビクトールの腕を、フリックは横になったままつかんで引きとめる。
「フリック?」
怪訝な顔で見下ろしてくるビクトールに、フリックはくすりと笑った。
「お前だってそっちじゃ寝にくいだろ?」
フリックの意図することに気が付き、ビクトールは「めずらしいな…」と肩をすくめた。
「もしかして、寒いのか?」
「まあ、そうだな……」
寒がりの自分が、「人間布団」としてビクトールを使っている自覚のあるフリックは思わず笑ってしまった。
確かに、少々無理をしているので疲れて体温が下がっていて寒いということもあるが。
それよりも、ここにくるまで馬上でずっと背中に感じていた熱が離れていくのがなんだか寂しいから―――などと言ったら、この男は笑うんだろうか?
それでも、そう思う心はとめられなくて。フリックは左肩を下にして壁側を向き、ビクトールが入るスペースを作ってやった。
呆れながらも、きっとこの男は自分の望む熱を与えてくれるだろう、と信じて―――。

fin...



■あとがき■

last update 2001/01/14