■ ちょろりん様 フリー小説 ■
Happy Birthday Dear Murrue |
「マリュー、もうすぐ誕生日だよね?」 ムウが普通の声で言う。 休憩室にはブリッジクルーだけでなく整備班もいて、ムウのよく通る“普通の声”はその隅々にまで聞こえてしまった。 「そうなんですか?艦長!」 「おめでとうございますー!」 「何かお祝いしましょうか?」 「欲しいものとかありませんか?」 皆が矢継ぎ早に声をかけてくる。 正直、その勢いにたじろぎながら、一応笑顔を作ってまあまあと手で一同を制する。 「あの、ありがとう、みんな。でも、お祝いとかそういうのは、私は別にいりませんから…」 慌ててマリューが休憩室から出て行くのを、これまた慌ててムウが追う。 通路をベルトに掴まりながら、ブリッジと格納庫への分かれ道にきて、ようやくマリューが止まる。 「もう…、あんな場所で…言わなくてもいいじゃない」 「みんなマリューの誕生日をお祝いしたいんだって」 「じゃなくて、理由をつけて騒ぎたいだけでしょう?」 「それが解かってるんなら、祭りのネタを貸してやってもいいんじゃないの?」 確かに。 こんな殺風景な戦艦の中で、小さな娯楽でも、あればみんな飛びつくのだ。 しかし、マリューはあまり気乗りがしない。 「ホントに何もいらないの?」 「ええ」 「やりたいことって無い?」 「やりたいこと、ですか?…そうねぇ。MS作りたいです。でも、今は無理でしょ?」 「…ナルホド。ま、元々そっちの人だからね」 「1ヶ月程時間があれば、図面を起こしてブリッツやイージスを作り直したいです。壊れちゃったし」 言いながら、自分の指を弄ぶマリュー。口調は愚痴っぽいが、ムウが覗きこんだ表情はハッとするほど輝いている。 「イキイキしてるね」 「え?」 「何かを作りたいって言った時の君の顔。…よし、決めた」 「な、何を?」 「マリューさんへお誕生日プレゼント!」 「あらっ?何を頂けるのかしら?」 「内緒だよ。その日まで」 ヒラヒラと手を振って格納庫へ去っていくムウを、マリューは不安と期待を混ぜた気持ちで見送った。 そして。 あっっっっ…という間に10月12日。 朝一番にブリッジに上がったマリューは、ノイマン以下ブリッジクルーに丸一日の休暇を言い渡される。 自分ひとりだけ特別扱いは困ると何度も主張したが、 「じゃあ艦長がその特別の最初になれば、他のクルーにも同じことができますよ?」 とかなんとか言いくるめられてしまい、結局艦長室へ逆戻り。 「折角お休み頂いても…何もすることが無いんですけど…」 「「そんなマリューさんに、プレゼント!」」 見事にハモったムウとキラ(手下)の声に振り返ると、二人して大きな紙袋をいくつか抱えている。 「何ですか?…それ」 通路で話すのもナンなので、とりあえず艦長室へなだれ込む3人。 マリューをデスクに座らせて、まずキラの袋から… 「ニッパー、ヤスリ、紙ヤスリ、ピンセット、それからマーカーペンと絵の具と筆とパレット、エアブラシもあります」 「ま、まさか…これって…!」 信じられないと、目を丸くするマリュー。その瞳が少し潤んでキラキラと輝く。 次にムウが袋の中から次々とカラフルな箱を… 「さあ、どれから作る?」 「プラモデル!キャーッステキ!」 HGシリーズ、1/60シリーズ、1/100シリーズ、1/144シリーズ、クイックモデル… SEEDのプラモが揃い踏み。 おまえら、バン●イの回し者か? 「…作っても、いいの?」 本当に本当に、幸せそうに目の前に並んだ箱を眺めるマリュー。 ムウとキラが顔を見合わせて笑った。 その日、休息に入るクルーにはプラモデルの箱とニッパー他道具が手渡された。 夕食までに発売されているHGシリーズを全て完成させたマリューが、フォビドゥンとカラミティの手に「レイダーも出せ」という横断幕まで持たせて10機のガンダムを休憩室のテーブルに並べると、クルーたちが作ったプラモデルも一緒にズラリと並べられ、その場は大ジオラマ会場と化した。 「マリューさん、お誕生日おめでとう!」 さりげなーく、EXメビウスゼロとスカイグラスパーをマリューの作ったガンダムの横に配したムウ。 一日の休暇を大満足で終え、子供みたいにはしゃいだ笑顔のマリュー。 この計画を考えた人に心から感謝する。 「ありがとう、ムウ!」 大好き、とは続けなかったが、思いは確実に伝わった。 おわり。 |
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