■ 誠月様 フリー小説 ■


素敵なプレゼントの選び方

 いつものソファで、いつものコーヒーブレイク。
「マリュー、もうすぐ誕生日だよね」
 向かいのフラガの言葉にマリューはきょとんと目を見開いた。
「あら、ご存知だったんですか?」
「そりゃもう、マリューのことならなんでも♪
 なんてったってこの世にマリューが生まれてきてくれた日だし」
 にこにこと笑うフラガにマリューは苦笑してコーヒーを口にする。
「といっても、この年になるとあまり嬉しいものでもありませんけど」
「そんなもんかねぇ」
 いまいちピンとこない様子でフラガはコーヒーを啜った。
「俺ももうすぐなんだよねぇ」
 そういうとフラガはずいっと身をマリューのほうへ乗り出した。
「そうだ、プレゼント交換しよう」
「交換…ですか?」
「そ。
 そうだな〜…うん、俺の誕生日にマリューちょうだい!
 その代わり、君の誕生日に俺あげるvvv」
 パッと顔を輝かせたフラガとは対照的にマリューは顔を引きつらせた。
「結構です」
 強い口調で言いきった。
「え〜…んじゃぁ、俺の誕生日に何かちょうだい。
 君の誕生日にはやっぱり俺あげるから」
 マリューの目が半眼になる。
「さっきのとどう違うんですか…」
「え〜〜、俺がプレゼントって便利だと思うけどなぁ。
 書類整理でも部屋の模様替えでもなんでもやるし〜」
 ふむ。
 そういう意味でなら、確かに便利かもしれない。
 片付けたい書類は山のようにあるし、部屋の模様替えはともかく、その他もろもろ
 雑用がたまっている。
「つまり、私の手伝いをしてくださるってことですか?」
「そうとってくれてもいいよ」
 マリューは心の中でメリットとデメリットを天秤にかけた。
「セクハラ抜きで?」
 フラガは一瞬うっと言葉につまったが、すぐによしっと頷いた。
 すっくとたって大仰な礼。
「お手伝いの間は善処します」
「それなら、プレゼント交換受けますわ」
 ひゃっほ〜〜と大げさとも思えるほど喜んでいるフラガに、さて自分は一体どんな
 プレゼントを用意したものか、とマリューは思考をそちらへ巡らせ始めた。
「お疲れ様でした」
 にこにこと上機嫌でマリューはフラガに頭を下げた。
 たまっていた書類は報告書からシフト組みまで全て完了。
 クルーの人数が足りないばかりに、手が回らなかった雑用の類も綺麗に片付いた。
 『プレゼント』は約束通りセクハラもなく、とても役に立ってくれた。
 別の意味でいい誕生日だ。
「終わり?」
「ええ、『プレゼント』とても助かりましたわ」
「じゃあ、これにサインくれる?」
 ファイルに閉じられた紙をスッと差し出された。
 真っ白な紙に名前の記入欄がある。
「なんです?これ」
「プレゼントを受け取りました、っていう受領書」
 俺の誕生日忘れてたらこれ見せるから〜というフラガにくすくすと笑ってファイルを
 受け取る。
「そんなに心配しなくても、ちゃんとプレゼントは用意するのに」
 さらさらとサインを書き入れ、「これでいい?」と受領書を返した。
「サンキュー」
 満足げに眺めるフラガ。
「おっと、そうだ。一時間半後に食堂な」
「はい?」
「ブリッジの奴らがさ、お祝いしたいってパーティの準備してるから」
 初耳だ。
「でも、そんな」
「みんな艦長の誕生日にかこつけて騒ぎたいだけなんだから、付き合ってやってよ。
 ケーキも予約しちゃったし」
 こういう好意は素直に受けたほうがいいだろう。
 マリューはこくりとうなずいた。 

 音程の揃わないハッピーバースデー。
 パンパンパ〜ン!!
 クラッカーが鳴らされ、盛大な拍手が鳴り響く。
 祝いごと、とはいっても何があるかわからないためモチロン酒は抜き。
 だが、雰囲気だけで酔っ払っているものもいた。
 テーブルの真ん中には、あのあとフラガが買いに走ったケーキがでんと乗っている。
 その大きさは特注だろう、と思われるもの。
 パーティに出れない乗組員たちにも後で配られるよう配慮されてのことらしい。
「一息ですよっ」
「願い事しました?」
 などと出席者の声援を受けながらロウソクの火を吹き消した。
「艦長、お誕生日おめでとうございます」
「ありがと。でもまた一つおばさんになったってことよね」
 ケーキに立てられたロウソクの数を横目に、苦笑しながらいうと、「そんなことはあり
 ません!」とこれは息の揃った返事が一斉に返ってきた。
「そういえば、フラガ少佐から何をプレゼントされたんですか?
 艦長にプレゼントあげるんだって随分はりきってましたけど」
「ええ、もらったわ。少佐を」
 しれっといわれた内容は一同を動揺させるのには充分で。
(((((なんですと!?)))))
 ぎょっと目を見開くクルーにマリューはにまっと笑った。
「少佐…を一日こき使う権利をもらったわ」
「「「「「は?」」」」」
「書類整理から雑用までたっぷりこき使わせてもらったの。
 たまってた仕事全部片付いちゃった。
 おかげでしばらくちゃんと休憩時間をとれそうよ」
「へ〜いいとこあるじゃないですか、フラガ少佐」
 だが、呼びかけられたフラガはそちらを見ようともしない。
「フラガ少佐〜〜〜〜」
 耳元で大きな声を出してやると、彼はちちち、と指を振った。
「俺、今日からムウ=ラ=フラガじゃないんだから」
 何言ってるんだこの男は。
 あんたがムウ=ラ=フラガじゃなければなんなんだ?
 名無しのセクハラ男か?
「俺、今日からムウ=ラ=ラミアスになるから」
 えっへんと胸をはるフラガに一同がっくりと肩を落とした。
(((((まただよ…)))))
 これで何度目だろうか。
 「俺は今日からムウ=ラ=ラミアスになるっ」と宣言しては、公衆の面前で「婿養子
 でもいいからっ」とプロポーズかますのだ。
 最初は驚いたものの、最近は誰も相手にしない。
 いつも「何ふざけてるんですか!」と説教をするマリューも今回は無視を決め込んで
 いる。
「怒らなくていいんですかぁ?艦長」
「どうせ自称なんだから、もう好きに言わせておきなさい。
 毎回怒るのも疲れたわ」
 せっかく今回は素直に感謝していたというのにこの人は。
 話を追いやるようにしっしっと手をふる。
「あ、今回は本当。ちゃんと籍も入れてきた♪」
 ぷぴっ。
 一斉に吹き出す一同。
「せせせせせせせ籍を入れた〜〜〜〜〜!?」
 叫んで全員マリューの方を振り向いた。
 マリューの顔は蒼白になったり真っ赤になったりと忙しい。
 口はぱくぱくと動いているが、声は出てこない。
 その顔を見れば、というか今までのやりとりで彼女が知らなかったことは明白だが、
 念のために聞いてみた。
「ご承知で?」
 ブンブンと大きく首を振る。
「え〜ちゃんといったよ。
 誕生日プレゼントに俺あげるって」
「そそそそそそそそそれは、だから一日手伝いとして」
「俺、『一日限り』なんて言ったっけ?」
 記憶をフル回転させる。
 確かに言ってない。
 が。
「私の手伝いをしてくださるんだって話でしたよね!?」
「妻の仕事を手伝うなんていい旦那だよね〜」
「私はそんな書類にサインしてませんっ」
「え〜にこにこ笑ってしてくれたよ」
 そんな覚えはない。
 そんな覚えは…おぼ…え…は………。
「ま、まさか!?あの受領書っ」
「あ、気付いた」
 二枚重ねにしていたのか。
 上の紙はインクを通しやすいものだったに違いない。
「プレゼントの受領書だって」
「だって『プレゼント』の受領書=『俺』の受領書=『婚姻届』。
 なんか間違ってる?」
(((((間違いだらけだ!っていうかそれは犯罪だ!)))))
 突っ込みたいが、下手に口だしすると後が怖い。
「二人で幸せになろうね〜マリュー」
 がばっと抱きつくフラガ ――― いや、ラミアスを腕で押しやる。
「セクハラっ」
「お手伝いの間はってことだったよね。
 てことはそれ以外なら夫婦の愛情表現」
「夫婦って…私は認めてません〜〜〜〜〜〜!!
 人の籍に勝手に入らないでっ!」
「え??俺をあげるっていったからラミアスにしたんだけど…マリュー=フラガのほうが
 よかった?」
(((((問題が違うだろっ)))))
 さすがにマリューが気の毒だ。
 溜め息をつきつつ、ナタルが横から助け舟をだした。
「大丈夫です、艦長。
 あきらかに詐欺ですから、無効にできます」
「そそそそそそうよね!?」
 希望を見出したように顔を輝かせるマリューに、ただし、と気の毒そうにノイマンが
 付け加えた。
「一応、裁判を経なければなりませんから、時間はかかります。
 つまり、その間書類上は……」
 ラミアスさんちの婿養子、ムウ=ラ=ラミアスは存在するのだ。
 ふぅぅぅぅ……バタッ。
「「「「「艦長っ!?」」」」」
 耐えられなくなったマリューがついに倒れた。
 十重二十重とマリューを取り囲む一同を自称夫が追い払う。
「こらぁ、人の嫁さんに勝手に触るなっ。
 マリューどうしたんだ、マリュー」
(((((あんたのせいだよ)))))
「なぁ、この大馬鹿少佐、今のうちに警察に突き出したほうがいいんじゃないか?」
 誰とも知れぬ呟きを、真剣に考えた一同だった。

End





[ 誠月様のHPへGO ]

last update 2003/10/12

※ウィンドウを閉じてお戻りください※