■ 水無月雫様 フリー小説 ■
しあわせがわからなかったときが多かったから 自分のことが精一杯で周りの奴のことなんか気にしてなかったから 自分さえよければそれで良かったから・・・ だから・・・正直・・・・どうすればいいのか分からない |
幸せなお祝いのやり方 |
珍しく、ムウ・ラ・フラガは参っているようだった 頭を抱えては時々「うー」やら「あー」等の意味不明な言葉を発しては 頭を激しく掻き・・・そして少し立つと静かになりまた数分後また同じ行動をする いつも飄々としている彼がこんなことをしていること自体不気味で仕方ない しかも場所は士官用食堂であり たまたまここを通りかかった自分達を例外として 数名しかここを使用するものはいない 黙って立ち去ると言うことも出来るのだが・・・ なんとなく、いつも世話になっていることもありつい、声を掛けてしまった 「どうしたんだよおっさん、珍しい」 「どうかしたんですか?ムウさん?」 いつものようにわざと茶化すディアッカ それを咎めるように見るキラ 子供達の中でもこの二人は同じパイロットとしても先輩なフラガに 特によく懐いている 「おっさんじゃねぇ!・・・って、キラも一緒か・・・いやなに・・・大したことじゃないんだけどさ〜」 「んだよ?オッサンの悩みって言ったら・・・やっぱし美人さん?」 「マリューさんに何かあったんですか?」 何となく、直感で言い当てるディアッカの言葉にキラは直ぐに納得し 何事かと心配そうに聞いてくる (・・・・さて、どうするべきか) 確かに今自分が悩んでいるのは「マリュー」のこと だが、いつも相談「される」側のフラガとしては、今目の前の二人が少し(かなり)頼りないようにも感じるのも事実である 今までの相談というか愚痴は全てマリューかマードックに聞いてもらっていた まぁ、マリューにも滅多にしなかったし (惚れた女に愚痴る程情けないものはない) マードックにもほとんど冗談のようにして言っては肝心なとこはほぼ煙でまいていたのだが だが、コレに関しては今までの「相談役」の人々が使えないのも事実である 「マリュー」が関係していることなだけに彼女本人はもちろん彼女を崇拝しまるで女神のごとく崇めている整備の連中に知られるわけにはいかない。 そのため、奴らを束ねているマードックも却下になってしまったのだ 他に使えそうな奴は・・・と考えて浮かんだのは我が艦の操縦士殿 奴が以前副館長殿といいカンジだったのは知っている だが、奴の下にも怪しげなサングラスヤローを筆頭に隠れマリュー・ラミアスファンがいることを知っているのも事実 おかげでこちらもおじゃん ならば・・・・この際後輩の知恵でも構わないような気がしてしまうわけで 今回ばかりは自分だけではどうしようもない なんたって今の状況が「戦場」という特殊環境なのだ 「オマエらさぁ〜好きな女の誕生日ってどう祝うよ?」 ・ ・ ・ ・ 「はぁ〜?おっさん、寝ぼけてんのか?」 それともついにぼけたか?と言ったディアッカは元地球軍エースパイロットエンディミオンの鷹の名の称号をもらった男の容赦ない鉄槌をくらい哀れもう少しで天に召されそうになった(ここがコーディーとナチュラルの差かも しれない/笑) まぁ、そんなワケでディアッカはそこら辺に投げといて(オイ) フラガはキラへと向き直った 「で、キラはどう思う?あのピンクのお姫様に何をしてやる?」 「え?・・・そうですねぇ〜・・・」 横たわったディアッカに哀れみと呆れを含ませた視線を向けながらちょっと考える・・・・が、すぐに「ん?」と言う声をあげた 「・・・ムウさん・・・質問していいですか?」 「なんだ?」 「なんで『何を上げる?』じゃなくて『何をしてあげる?』なんですか?」 そうなのだ先ほどからキラやディアッカが引っかかっていたのは 大抵世の男性陣は「どんな物をプレゼントするか?」と言う質問はしても 「どんな風に祝うか?」等といったものはあまり聞いてはこない それをどうして「この男」が聞いてくるのか? それを二人は分からなかった・・・が 「おっ、さっすがキラ!いいとこに気付くなぁ〜」 いつものような笑顔で返されるのだが、その雰囲気に思わず引きそうになる (詮索するな) 口でも表情でもない、ただ雰囲気だけで相手を脅す 滅多にそんなやり方をしない彼(いつも得意の煙に巻いてしまうので) がそれをするという方が少年達には以外でありつつもどこか納得できた (よほど必死なのだろう) それは「男」だから共感で着るものでありなかったり なんともあやふやではあるが、少年達は失笑するだけに留めた 「そうですね・・・じゃぁ・・・あ、ディアッカ!そろそろ起きて手伝ってよ!」 「へいへい、まぁ、美人さんのためだと思えば別にいいかぁ」 そんなやりとりをしながら少年二人を交えた「男の」話が少しの間士官食堂で続いた ********** 「・・・それが、この結果ですか?」 マリューは隣りに立つ男性に柔らかい笑みを向けながら問う その笑みにフラガは満足そうに頷く 先ほどフラガが説明したこの現象にたどり着くまでの経路 少年パイロット二人に少し悪いことをしたかしら?等と考えつつも マリューはフラガが二人の少年を巻き込んで起こしたこの現象に見惚れた いつもは殺風景な艦長室が今は数多の星々の光に包まれていた 「キラがさ・・・子供の頃に親御さんと誕生日の日に星を見上げたって話になってさ・・・協力してもらったわけ」 「またキラ君に無理を言って・・・ それで、この白いテーブルはどうなさったんです?」 フラガがキラに頼んで作ってもらったのは星々の光を写生し部屋中360度に映す簡単なプラネタリュウム そしてマリューが指摘したのは星々の灯りに敷き詰められた中部屋の中心に備えられた真っ白なテーブルクロスとテーブルの上の一輪の花 「んー、コレはディアッカの意見、アイツはいつも真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルでさ豪華な飯が振る舞われたんだとさったく、お坊ちゃまめ!」 「ふふ、あなただって・・・そうだったんでしょ?」 「・・・・そうでもなかったんだな・・・・これが」 「あっ、ご、ごめんなさい・・・・」 ディアッカのことをわざとらしく言うムウに思わずクスクス笑って指摘するとムウは複雑な表情でやんわりと否定した その表情でマリューは自分がとんでもないことを自覚した 彼が幼い頃体験した経験を自分は聞いたはずなのに 彼が両親から「愛されなかった」ことを知っているはずなのに そんな彼が「誕生日を祝ってもらう」ことなんて・・・・ 「・・・・だから、・・・キラ君達に聞いたんですか?」 もしかして・・・ムウがキラ達に「祝い方」を聞いたのは本当に「どう祝っていいか」知らなかったから? 幼い頃から虐げられてきた環境から 耳にして情報として処理したとしても彼は体験したことがなかったから? だから「わからなかった」? そう目で問うとムウはどこか諦めたように肩をすくめるだけに留めた 「・・・ホントはさ、ぜ〜んぶ俺がセッティングしてやろうと思ったんだけどさ、さすがにこの状況じゃちょっと無理でしょ?・・・それかだけだよ?」 「気にするな」と言っていることには気付いた・・・でも 「なら、楽しみましょ?せっかくノイマン君がわざわざシフトをいじってくれたんです・・・ムウも楽しんで?せっかく祝ってもらうなら・・・・ あなたも楽しくなきゃ損でしょ?」 同情的な言葉はこの人にはなんの価値もない 涙はこの人の重りになる ならば・・・あなたが少しでも楽になるのなら・・・・・ 「どこで手に入れたかなんて聞きませんから、その手に持っているもの 一緒に飲ませていただけません?」 そう言ってムウが隠し持っていたボトルをヒョイっと取り上げる ムウは「参ったな」なんて言う表情で頭を掻きつつも わざとらしいほど恭しくマリューにボトルを手渡した 「どうぞ?お姫様」 「お姫様って歳じゃありませんわ」 「なら女王陛下?うわ〜マリューさんってば積極的♪」 「もう!!何言ってるんですか!!」 わざとじゃれるようにマリューを抱きしめる マリューも分かっているのか怒っている口調でも優しく抱き返す 「お祝い・・・してくださるんでしょ?ならせっかくなら楽しんでして下さい」 「俺は『大人』の楽しみもいいけど?」 「・・・バカ・・・でも、・・・・こんな風にしてくれるだけで結構ですよ?」 「ん?どういうこと?」 「こうやって・・・抱きしめてくださるだけで・・・・充分だってことです(///)」 真っ赤になって顔をムウの胸へと埋めてしまった今夜の主役に ムウは・・・なんと言っていいかよく分からない思いが込み上げてきた (・・・マリューが下向いててくれて良かった) くらい部屋で傍目からはよく分からないが ムウは自分の顔が赤いのが何となく分かった・・・ そして自分の胸に顔を埋めている女性も同じだということも ムウはポンポンっと頭を軽くあやすように叩くとそっと彼女の耳元に口を近づけた 「お誕生日おめでとう・・・マリュー」 たいした贈り物も 豪華な食事もケーキもないけど こういうのが「幸せなお祝い」なのかな?っと不意に思う きっとそれは自分が「マリュー」を必要としてることと一緒 傍にいて、愛してくれて、ただ存在してくれるだけで嬉しくて、幸せ ならば今日は本当に感謝しなくてはならない 「・・・・・生まれてきて、俺と出会って・・・好きになってくれて ・・・・本当に・・・・ありがとう」 心の底からそう思える・・・これが「幸せ」なんだろう |
|