■ aila様のフリー小説 : マリューさんhappy birthday ! ■


especially for you

目が覚めたとき、もう外は明るかった。
何の気なしに時計を見て―ふと、今日が10月12日だということを思い出す。
他人にとっては、どうということもない普通の日。


私にとっては、少しばかり複雑な思いにかられる日。


年をとる、ということ。
今までの自分に、新しい経験が積み重なること。
小さいころはよく、「大人になるのだ」と思っていた。
大きな期待と、小さな不安とで胸を膨らませて、その日を待っていた。
大人と呼ばれる年齢になった今は、もう、あの時のような気持ちは浮かんでこない。
―また、年をとっちゃうのね。
そう苦笑して受け入れるだけの、少しばかり特別な日。


窓に近づいて、カーテンを開ける。
差し込む光も、揺れる木々も、昨日と何一つ変わらない。
それなのに、「君を祝福してるんだ」と言われれば信じてしまうかもしれない―やさしい風景。
一年前の私には決して想像のつかなかっただろう―穏やかな毎日。


いつも側に誰かがいる。
いつも自分が必要とされている。
いつも誰かが笑顔をくれる。
―そんな、日々。


しあわせ。
ふいに、そんな言葉が胸をよぎった。
望んではいけなかったはずの、叶うことのなかったはずの―しあわせ。



「―何、泣いてんの」
言われてはじめて、自分の頬を伝う雫に気がついた。
振り向くと、近づいてきた彼にそっと手で頬を拭われる。
大丈夫よ、と軽く首を振った。
そんな私にちょっと笑って、ムウはおもむろにこほん、と咳払いする。

「誕生日おめでとう」

え、と驚いて声をあげると、彼はくっくっと笑った。
「知らないとでも思ってた?」
やだねー、俺、これでもダンナなのに。
なんて、大げさにため息をついてみせる。
「・・・そんなこと、興味ないかと思ってた」
これは本音。
過去よりも、未来を語る方が好きなひと。
それが、あなた。
私の言葉に、彼の瞳がすっと優しくなる。

「んなわけないだろ。―ばか」

つん、と人差し指で額をつつかれた。
昔から変わらない、この人の仕草。
まるで悪戯好きの少年みたいで、つい笑ってしまう。
「そうね」
微笑んだまま、小さく頷いた。
そっと彼にもたれかかると、嬉しそうに肩に手を回される。



私がいて、側であなたが笑っている。
当たり前に見えて決してそうではない、―とてもとても素敵なこと。
永遠など存在しない世界で、それでも今日もあなたに会える。



―それが、わたしのしあわせ。


Fin

[ aila 様のコメント ]
マリュさん誕生日記念のSSです。
彼女の望む幸せが何か、私には想像することしかできません。
でも、マリュさんの隣でフラガさんが笑っていることを、そしてマリュさんが幸せそうに微笑んでいることを、ただ願いたいのです。
(すみません・・・管理人、ちょっと夢見てます・・・^^;)



aila様のサイトで
マリューさんお誕生日記念のフリー小説
を掲載されていたのでしっかりと頂いてきました!
切なさを感じさせる出だしでドキッとしますが,
最後にはしあわせに笑うマリューさんがいて,泣きそうになりました(苦笑)。


素晴らしい小説,ありがとうございます!aila様!!



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last update 2003/10/07

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