■ ちゃな様のフリー小説 ■


 HAPPY BIRTHDAY - 1129


ふと気づくと、窓の外は太陽のかけらさえ見当たらない闇に包まれていた

同僚のカリキュラム組み立ての相談にのっていたら定時を大分過ぎていた
オーブ国立パイロット養成学校の臨時教官になって早数ヶ月
ムウは既に臨時の肩書きは関係のない日々を送っている

「寒っ!もっと厚着してくりゃよかった…」
遮るものが何もない敷地内を寒風が吹き過ぎムウは首を竦める
その横を同僚の乗った車が通り過ぎていく。彼自身はエレカ乗り場へと向かっていた
マイカー通勤はもちろん許可されているのだが、ムウが乗ってきてしまうとマリューの『足』がなくなってしまう。彼女が構わないと言っても、ムウは世界で一番大切な彼女に不便を感じさせるつもりはさらさらなかった

敷地の外に定められているエレカ乗り場までは結構な距離があり、冬真っ盛りな時期にコート一枚で歩くにはかなり堪える
――明日はもう少し着込んでこよう――
風に耐え俯きながら思っていたムウは、ふと何かに引かれるように顔を上げた。まだ少し距離がある門柱の横に誰か立っているのが見える
半瞬で誰か分かるとムウは慌てて駆け出していた

「マリュー!!」
「あ、お疲れ様」
ムウ同様、寒さに縮こまっていたマリューは、声に気づくとこちらを向き笑顔で迎えてくれる
その顔に頬が緩むムウだったが、強く吹いた冷たい風で我に返る
「なんでマリューこんなところで待ってるの?!風邪ひいちゃうだろ?」
二人が住んでいる町から、この養成学校までは車で一時間程かかる。何か用事のついでで立ち寄るような距離ではないのだ
「なんで、って。迎えに来たのよ?」
キョトンと言うマリューの答えに、ムウは固まった一瞬後に肩を落とす
たまらなく嬉しいのだが、迎えにきてくれたせいで彼女が風邪でもひこうものなら…

「サンキュ、とりあえず車に行こう、本当に風邪ひいちまう」
マリューの肩を抱きよせ少し先に止めてある車に向かおうとする。と、マリューがムウの袖をひっぱり引きとめた
「ちょっと待って、ムウってば今日が何の日だか忘れているわね」
「?…なんの日って…」
思わぬ質問に戸惑っていると、フワリ、と首の周りを暖かな感触が被った

マフラーだと認識すると同時に、マリューの腕がその上に巻き付けられた
「誕生日おめでとう…あなたが生まれて来てくれてよかった」
「あ…」
今日は11月29日。自分の誕生日だ

「…すっかり忘れてた」
「だと思った。私の誕生日は覚えてて、自分のを忘れるなんておかしいわよ?」
「マリューの誕生日の方が大事だし。これって手編み?」
見返りを求める為に祝った訳ではなかったし、もともと自分の誕生日を祝うという感覚がなかった
子供の頃から楽しい思い出としてなど残っていない
「あんまり巧くないけどね…私の言った事聴こえてなかった?」
「聴こえたよ。『自分の誕生日を忘れるなんておかしい』って」
「そこじゃないわ、もう」

――あなたが生まれて来てくれてよかった――

そう、もう一度言ってくれた彼女を見つめる
「今日は私にとって大事な日。あなたが生まれてきてくれたおかげで、こうして会えたんだものね」

――だから、ムウも自分の誕生日を大事にして?――

全ては語らず、心を込めて微笑んでくれるマリュー
生まれなければ、この微笑みにも出会えなかった
彼女に会えない人生なんてありえないし、考えたくもない。自分が生まれた日を感謝するなんて考えた事もなかったけれど、しない訳にはいかない

「わかった、来年からは忘れない」
だいぶ冷えてしまった彼女の身体を抱きしめる
彼女のプレゼントと心のおかげで暖まった体温が彼女に伝わるように
「毎年マリューに出会えた事を感謝する日が一日増えた」
「でしょ?毎年、10月、11月は何時も以上に感謝できる日があるのよ」
この11月29日は彼女の誕生日と同じように、大事な日
マリューを更に抱きしめて、もう一度誓う
「あぁ、絶対忘れない」

―俺が生まれてよかったと言ってくれる彼女に出会えた人生の始まりの日を―




Fin

[ ちゃな様のコメント ]

ムウの兄貴のお誕生日記念SSです〜〜
…いや、もう産みの苦しみで…の、わりには…アウ
それは置いておいて、新婚さん(当HP内ではまだ結婚してないですけど…)と言えば新妻が駅までお出迎え〜〜♪が定番かな?と思い浮かびまして。でも、駅は近くにないだろうし、家から遠すぎるムウさんの勤め先(以上、My設定)には毎日行けないし…って事で、兄貴誕生日だからマリューさん特別にお出迎えに行って貰いました。
くどくならないようなSSを!と思ったのですが…う〜ん…すみません




ちゃな様からステキな小説をゲットしてきました♪
新妻駅までお迎え!うはあラブラブですヨ!!
もームウ兄,手編みのマフラー毎日巻いて通勤しちゃいますね♪





素晴らしい小説,ありがとうございます,ちゃな様!!



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last update 2003/12/03

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