■ 夕維伽様のフリー小説 ■
君が生きている喜びを。 |
pleasure |
「ねー、ムウ」 「んー?」 「お夕飯、なにがいい?」 「んー。玉子焼き」 「・・・それメインじゃないでしょ」 何気ない会話を、街中を歩きながら話をする。 戦艦に乗っていた頃には考えもつかなかったようなこと。 軍人やっていたら、こんな休日を過ごせる機会もなかったし。 第一、同じ配属先になるとは限らない。 オーブにいる限り、カガリがそんなことさせないだろうけど。 アークエンジェルを降りてから、ムウとマリューは一緒に暮らしだした。 そのうち、自然と周りが結婚しないのかと騒ぎ出し。 大騒ぎのうちに結婚して。 軍人をとりあえず辞めた。 しばらく、静かに暮したかった。軍とは関係なく。 今、復興で頑張っている子供達やナタルには悪いけれど。 その申し出を、カガリは笑って了承した。 『結婚祝いだ。けど、ほんとに辛くなったら、助けてくれよなっ』 そういえるカガリが、微笑ましく。また、頼もしかった。 そうして、いまオーブの一市民として暮しているのは不思議な感じだった。 ムウはいま、時々オーブ軍のパイロット訓練学校で教鞭をとり。 マリューは同じくオーブ軍の訓練学校で、ヘリやMAの整備をしている。 完全に軍と切れないことに笑いながらも、それはそれで穏やかな日を過ごしている。 「んじゃぁ、肉じゃが」 「いいわよー。他には?」 「んー、から揚げ?ハンバーグ?」 「子供じゃないんですから・・・」 なんで、あげる料理が全部肉料理だったりするのだろうか。 呆れたようにため息をつきながら、マリューはくすくすと笑った。 それでも、どこか楽しそうだった。 「でも、まぁいいわ。作ってあげる」 「えっ、ほんと?マリュー、やっさしいぃ」 にこっと笑うムウの顔は心底嬉しそうで、マリューは見ているだけで笑みを漏らす。 「あっれー。マリューさん、フラガ!」 「あら、カガリ」 「・・・嬢ちゃんはどうして、マリューだけ"さん"付けなんだろうなぁ」 通りの向こう側から手を振ってくるみなれた姿に、マリューたちは足を止めこちらに渡ってくるのを待つ。 首をかしげて、呆れたようにしているムウにカガリは見なかったふりをするようにマリューの腕に抱きつく。 「久しぶり、マリューさんっ。元気だった?」 「ええ。元気よ。カガリや、キラくんたちも元気そうね」 抱きついてきたカガリの後ろには、キラとアスラン。そして、ラクスの姿もある。 「お久しぶりですわね。マリュー様、フラガさま」 「おう、お姫様も元気そうじゃないの。アスランまで一緒で、どうしたんだ?」 「うん。落ち着いてきたし、みんなで一緒に暮らせればいいかなぁって」 くすっと笑うマリューに、ムウも嬉しそうな顔をする。 それだけ落ち着いてきているということだろうか。 「プラントのほうは平気なのか?お前たち」 「ええ。こちらとあちらを行き来することになるかと思いますけど」 にこっと笑うラクスに、マリューはそっと手を伸ばして頬をなでてあげる。 嬉しそうにラクスは目を細め、マリューに笑いかける。 「みんなでなのかー?ラクスとキラ、カガリとアスランでなく?」 「ムウさん!それはさすがに・・・」 未成年である四人が一緒になら、キサカたちも許可するだろうが。 特に箱入りであったカガリのことを、キサカたちがしばらくであろうが共同生活を許したことのほうがムウには驚異だった。 「それで、マリューさんたちはどうしたんです?」 「ん?お買い物」 にこっと笑ったマリューが嬉しそうに、両手に持った袋を見せる。 その様子に、カガリたちが嬉しそうに笑う。 一度はムウが死んだものとし、暗い顔をし続けていたマリューがいま笑っていられることが、彼女たちは嬉しい。 「あれ、マリュー何時の間にそんなの買ったの?」 いつの間にか、持っている荷物が一つ増えていてムウはきょとんっとした顔をマリューに向ける。 それをうけて、マリューはにこっと笑う。 「ん?ムウの誕生日でしょ?」 「えっ?」 「はいっ、プレゼント」 にこーっと笑うマリューは、実に嬉しそうだ。 プレゼントを渡せていることが嬉しいらしい。 「あーっ、フラガ、誕生日か」 「そっか。じゃぁ、パーティしよう」 「いいですわねぇ。どうですか、マリュー様?」 「え?ふたりだけにさせたほうが・・・」 なにやら、横で大騒ぎを始めた少年達にマリューは笑う。 貰ったプレゼントを片手に、ちょっとだけほうけたようになっているムウを横目で見てマリューは彼らに笑う。 「いいわよー、うちにいらっしゃい。そのかわりメニューはもう決まってるけど」 「なになに?」 嬉しそうに乗り出してくるカガリに、くすくすと笑いマリューが答える。 「玉子焼きと、肉じゃが。それにからあげとハンバーグ」 「なんだよっ、肉ばっかじゃん」 むすっと顔を顰めてみせるカガリに、マリューはくすくすと余計に笑みを深める。 「ね?ムウ」 「・・・そうだ。メニューは決まっているぞぉ、お嬢チャン」 にやっと笑ってムウは、カガリの頭をぐしゃぐしゃとなぜる。 それに悲鳴を上げて逃げるカガリに、みなが笑う。 「まぁ、いいじゃありませんの。途中でケーキを買いましょう?カガリ」 「そうだっ。マリューさん、私たち、ケーキ買って行く!」 「まぁ、ほんと?嬉しいわ」 にこにこと笑ったマリューは、そういってカガリたちはばたばたと走り去っていく彼女たちを見送る。 「ねぇ。マリュー?」 「ん?なに」 「プレゼント、なに?」 「おうちに帰ってのお楽しみ。ふふっ、今日は賑やかねー」 「でも、夜には帰すんだろ?」 「そうね。ムウがそうして欲しいなら」 「うん。そうして」 「はいはい」 甘々な会話を続けるふたりに、カガリたちにもついていき損ねたキラとアスランが顔を赤くしながら突いて歩いた。 Fin |