■ 夕維伽様のフリー小説 ■
明日、また一緒にいよう。 今日、一緒にいられる幸せを明日でも続くように。 そんな願いを重ねている。 |
運命の輪を重ねて |
「もうっ、ホントに知りませんからっ」 「こっちだって、知らないね!」 ふんっとそっぽを向いたマリューは、そのまま部屋を出て行ってしまう。 部屋から出てっただけでなく、マリューは足音も高らかに家からも出て行ってしまった。 普段、おっとりしているように見えやはり軍人になるような女だ。 マリューも結構頑固で、また意思が強い。 めったに怒らない分、本気で怒るとムウでは勝てなくなる。 誰もいなくなった部屋でやがて、ムウはこっそりと後悔する。 「はぁ・・・。なにやってんだろ、俺」 どさっとソファに沈み込んでみても、普段笑いながら差し伸べられる手はない。 静か過ぎる部屋は、だんだん不安と寂しさを呼び起こして行き・・・・。 不貞寝をするように、ムウはそのままベットに移動すると頭まで毛布を被った。 うるさい・・・。 いつまでもなり続ける音に、ムウはしぶしぶとベットから起き上がる。 脇に置いてある時計を見ればマリューが出て行ってしまってからすでに3時間以上経っている。 ため息をついて、ムウは頭を振るとうるささの元を手に取った。 「はい・・・?」 『なんとかしてくれよぉ〜。おっさん』 「誰が、おっさんだ」 がりがりと頭をかくムウの耳に、すでに馴染みになってしまった元敵兵士である少年の声が聞こえてくる。 お決まりの返事を返しておきながら、ムウは珍しく泣き言をいうような声を出すディアッカに少しだけ疑問を抱く。 ミリアリアを一生懸命口説いていたディアッカの努力はなんとか実り、今ではほぼ同棲していると言ってもいい状態で。 結婚も間近のはずなのだが・・・。 「なんだよ、嬢ちゃんと喧嘩でもしたか?」 (って、そりゃ俺か) 寝る前の騒動を思い出して、ムウはわずかに機嫌を低下させる。 しかし、そんな事情を電話の向こうのディアッカが知るわけもなく。 『ミリィがらみだけど、そうじゃないって』 「じゃぁ、なんだよ」 『マリューさんが、ミリアリアんとこきたらしくてさぁ。俺、デートすっぽかされたんだけど〜?』 「・・・なんだ、嬢ちゃんのとこか」 『はぁ?なに、そっちこそ喧嘩でもしたの?」 行き先がわかってほっと息を吐き出したムウに、今度はディアッカがからかうように声をかける。 「お前には関係ないだろ」 『あるって。マリューさん来て、ミリィはふたりしてどっか行っちまったんだぜ?』 不満らしいディアッカの声に、ムウは俺だって不満だと思う。 しかし、ここでヘンな話の振り方をしてしまうとマリューがミリアリアを訪ねた理由を聞かれそうでムウはため息をつくと立ち上がった。 電話を肩に挟んで、上着と車のキーを取る。 「お前、いまどこ?・・・オーケー、んじゃ今から俺家出るからさ。・・・そう、・・・」 階下に下りるまでに話をつけると、玄関のサイドボードの上に電話を放り出しムウは家を後にした。 車を走らせながらムウは窓を流れる景色を見ながら、ぼんやりと考える。 一眠りして、インターバルを置いた今。 マリューとした喧嘩は、あまりにも些細なことで。理由なんて忘れそうだった。 それだけ、どうでもいいことでどうしてあんなに熱くなったのかがよく分からない。 ただ、今考えているのははやくマリューに会いたいということばかりだった。 まだ、怒っているなら謝ればいい。 マリューが普通に笑ってくれるなら、それこそなかったことにしてしまえばいい。 そんな都合のよいことを考えながら。 ムウはとにかく、先を急いでいた。 ディアッカを拾い、ミリアリアの家に行く。 ドアホンを押すと、通信越しによく聞きなれていた少女の声が聞こえてきた。 『は〜い?』 「俺。おっさんも一緒」 ディアッカの声に、ミリアリアはくすっと笑うとモニターをつけた。 『あ、こんにちわ。ムウさん』 「やぁ、ミリアリア」 『いま、鍵開けますから』 「ありがとう」 ディアッカに、視線を少しだけ向け笑うミリアリアを可愛らしいなと思いつつ開けてくれたドアをくぐる。 勝手知ったる恋人の家。さっさと進むディアッカの後を追いかけて、すでに何回目かの訪問になるミリアリアの家にあがる。 「ミリィ?」 「こっちよ、ディアッカ」 ダイニングにいくと、そこにミリアリアの姿はなく声はその先の寝室からした。 女の子の部屋を覗くのもどうかとも思ったのだが、そんな気遣いもなくさっさと言ってしまうディアッカのあとをムウも追う。 「なんでこっち?」 「マリューさん、眠っちゃってるの」 し〜っと唇に指を当てながら、ミリアリアがくすっと笑って部屋から顔を出す。 複雑な顔をするムウを見上げ、笑ったミリアリアは彼が中をみるためにそっと体を横にずらす。 その部屋のソファには、栗色の髪の女性が横になっている。 柔らかそうな髪も、そのつややかな肌もムウはよく知っている。 「マリューさん、なんか怒ってるなって思ってるうちに落ち込みだしちゃって。気分転換に買い物でたあとに眠っちゃったんです」 困ったという感じで微笑むミリアリアに、ムウは苦笑する。 よくも悪くも、ミリアリアはマリューを姉のように慕っていて。同じくらい、ムウも慕ってくれている。 だから、マリューが怒っている理由がムウだろうことも分かっていて。 「悪い、ミリアリア」 「だったら、ちゃんとしてくださいね」 わざとしかめっ面を作って見せて、ミリアリアはムウに指を突きつける。 「ああ、分かってるよ」 「じゃぁ、私たちちょっと買い物言ってくるんで留守番お願いします」 「ああ」 気を利かせて出て行ってしまうミリアリアとディアッカを見ながら、ムウは笑う。 これじゃぁどっちが年上か、分かったものではない。 苦笑したムウは、ソファの上で丸くなっているマリューの髪を撫でる。 「マリュー・・・」 「ん〜・・・、むうぅ」 小さく呻いたのか、自分の名前を呼んでくれたのか微妙なマリューに笑いムウはそのまま髪をなで起きるのをまつ。 ほどなく、ミリアリアと違う気配に気がついたのかマリューがごそごそと寝返りをうつ。 「みりぃ?」 「ミリアリアなら、ディアッカと買い物に出かけたよ」 「・・・ムウ!」 はっと起き上がったマリューが、どこか居心地悪そうな顔をしてムウを見返す。 ちょこんっとソファの上に座って、こちらを伺っているマリューの表情は小動物じみていて可愛い。 「マリュー、ごめんな」 そう言って、そっとマリューの額に口付けを落とすと彼女はむくぅっと頬を膨らませる。 「ずるいわ、ムウ。私が謝ろうと思ったのに」 「へへっ、じゃぁ仲直りな?」 「ええ。・・・私の方こそごめんなさい」 額をくっつけるとマリューはくすぐったそうに笑う。 なんで、喧嘩したのかなんて忘れてしまったけれど。 仲直りできたから、よかった。 今日のうちに出来たから。 「そうね。ほんとは、もっと早くに言うつもりだったのだけど」 「なに?」 「お誕生日おめでとう、ムウ」 ちゅっと可愛らしいキスを頬に寄越したマリューは、笑って身体を離す。 きょとんっとした顔をしたムウに、マリューは満足げに笑う。 「私のは覚えていても、自分のなんて忘れていたでしょう?」 「・・・ああ」 「今朝言おうと思ったら、あなたったら自分なんてどうでもいいっ、見たいなこというから頭にきちゃった」 くすっと笑いながら、マリューはわざとらしく頬を膨らませてみせる。 不機嫌だった理由が分かって、ムウはマリューの身体を抱え込む。 「ごめん、マリュー」 「迎えに来てくれたから、もういいわ」 それに、ほんとならお誕生日を一緒に祝いたかったんだから。 そう言って、マリューは腕のなかで身体を捻るとまた小さなキスをムウに贈る。 家に帰ったら、プレゼントがあるのよ。といって、マリューは優しい笑みをムウに見せた。 「ね、マリュー」 「だめよ」 「なんで?」 「ここは、ミリィの家でしょっ。そろそろ帰って来るわ」 「じゃぁ、帰っちゃおうか」 「だーめ。鍵しておかなきゃでしょ」 Fin |