■ ぐらん様のフリー小説 ■


 懐 中 時 計


「ええ!?そんな、急に・・・」
 オーブ軍総監部執務室。
 その部屋の主であるマリュー・ラミアスは、出勤早々に思わぬ連絡を受けた。
 彼女の目の前には、申し訳なさそうな表情のカガリが佇む。
「いや、私もなんとか日程を延ばそうとはしたんだが・・・」
 なんとも言えない表情のカガリを見れば、マリューとてそれ以上の言葉を紡ぐことなど出来ない。
 なにせ、彼女は代理とは言え、このオーブの代表だ。
 そんな彼女の依頼を、一軍人たるマリューが抗えるはずもない。
「夕方までには終わらせるようにするから」
 必死のカガリ。
 彼女の依頼とは、赤道連合から派遣されている視察団との交換会に出席して欲しいとのことだ。
 本来は、実動部隊の長であるオーブ軍幕僚総長と、事務関係の長である総監部総長が出席する予定であった。
 しかし、マリューの上官である総監部総長が体調不良となり、他の次長クラスの幹部が軒並み会議や、友好関係にある各国へと出払っているため、平常勤務のマリューへとお鉢が回ってきたのである。
 何にせよ、真面目なマリューが、その様な状況において、代理出席を依頼されれば、そうそう断り切れるものではない。
 しかし、彼女には気に掛かる問題がある。
「ゴメン。今日がフラガの誕生日だってのに」
 カガリの言うとおりに、この日はムウの誕生日であった。
 その為、マリューは会議の日程などを出来る限りずらしたり、事務的な仕事を速める物と、延ばす物とに振り分けたりもしたのだ。
 それらの努力をもって、今日という日をムウと過ごそうと考えていた。
「分かりました。オーブにとっても重要なことですから、出席いたします」
 残念ではあるが、自分たちを受け入れてくれたオーブの為にも、自分たちの我が儘で友好関係にヒビを入れることなど出来ない。
 しかし、どうやってムウを説得しようか。
 彼女の脳裏には、駄々をこねるムウの姿が浮かんでしまった。

「ええ!?そんな急に・・・」
 ムウへとTV電話で報告したマリューは、画面上の恋人が、自分と同じ驚き方をしたために、思わず苦笑してしまう。
「何笑ってんだよ」
 少々ムッとした表情のムウを見て、またもや苦笑してしまう。
「ご免なさい。でも、夜までには、終わると思うから」
 言ったところで、彼の不満が収まるとは思えない。
 案の定、マイナス方向へとムウの思考が走っていく。
「そんなこと言ってもさあ、大抵時間通りには終わらないじゃない。遅れに遅れて、終いには翌日になったり・・・くそう、あくまで邪魔するというなら、爆撃してやろうか」
 物騒なことを言い出すムウだが、彼とて、オーブへの借りもあれば、軍人として命令に従わなければならない現実も承知している。
 それだけに、恨みこそすれ、命令に従わないことなど出来るはずもない。
「もう、我が儘言わないで。ディナーには間に合うようにするから」
 なだめるマリューも、ムウの誕生日を祝ってあげたい気持ちを押さえることに必死だ。
 その為の準備もしており、ムウ本人にも負けない程に待ちわびていたのだから。
「うう・・・分かったよ。でも、絶対に2人で誕生日を過ごすんだからな」
 ムウの子供のような言い様に、彼女も微笑んでしまう。
「はいはい。それじゃあ、終わったら連絡するから」
 会話を終え、電話を切ると、一つ息を吐き出して背もたれに身体を預ける。
 ムウをなだめるというのは、思った以上に大変なことで、大人でありながらも、どこか子供じみた部分を見せる彼を、いかに不機嫌ならざるように収めるかは、マリューの舵取り一つだ。
 まかり間違って、彼の機嫌を損ねようものなら、まるで幼児のように臍を曲げてしまう。
「大変ですね」
 彼女の様子を眺めていたミリアリアが、苦笑混じりに声を掛けた。
 そんな彼女に、マリューも苦笑を返す。
「ホント、いい年した大人がね」
 2人は見つめ合い、思い出したように吹き出した。
「それでも、ムウさんが可愛いんですよね?」
 ミリアリアの言葉に、マリューは諦めたような表情で頷いてみせる。
 惚れた弱みか。
 いや、それ自体はムウも同様だろう。それ以上かもしれないが。
 しかし、どうしても、ムウの行うことが憎めない。
 怒ったりするようなこともあるが、大抵は苦笑しながらも許してしまう。
 単純に「可愛い」とも思えれば「愛しい」とも思えるからだ。
 マリューは、ふと何かを思いだし、おもむろに机の引き出しを開けてみる。
 そこには、ムウへと贈るプレゼントが、リボンと綺麗にラッピングされた紙によって包まれていた。
 取り出し、両手で包みながら眺めてみる。
「ムウさんへのプレゼントですか?」
 ミリアリアの問いかけに、黙って頷く。
 その表情は、やわらかな笑顔を称えていた。
「もう、カガリもマリューさんを引っ張りだすこと無いのに」
 少々顔を膨らませたミリアリアを見て、マリューは何度目かの苦笑をする。
「そういうことを言わないの。これも仕事ですよ、ミリアリア・ハウ准尉」
 上官からそう言われては、部下としても言葉を続けるわけにはいかない。
「了解しました。ラミアス大佐」
 敬礼をし、キリッとした表情を見せるミリアリア。
「よろしい」
 自らも敬礼で返すマリュー。再び、2人は笑い出した。


 午後5時30分。
 視察団とオーブ代表団の交換会が行われるホテル「シャングリラ」のロビーに、軍の礼服に身を包んだマリュー・ラミアスの姿が見える。
 その傍らには、彼女の副官であるミリアリアも付き従い、カガリと赤道連合の視察団が到着するのを待ちわびていた。
「遅いですねえ」
 到着予定は午後5時。30分遅れだ。
「多少の遅れは仕方ないわよ。視察先で話し込んでいる事もあるだろうし」
 マリューは言うが、時間の遅れだけは、出来る限りして欲しくない。
 無論、ムウとの約束の時間が押してしまうからだ。
 そう考えると、自分が変わってきていることに気づく。
 かつての自分であれば、仕事よりも色恋事に気を取られただろうか。
 恐らく、否定できることだ。
 いくら恋をしていても、軍人である以上、仕事を優先させてきた自分。
 昔の恋人も、その事には理解してくれたし、何よりも同じ軍人であった。
 では、ムウはどうだろう。
 今でこそ教官という仕事をしているが、軍に属し、かつては最前線で戦い続けてきた男だ。
 軍における命令が、一兵士の事情によって拒否できるようなものでは無いことなど、重々承知している。
 それでも、彼は自分に対して我が儘を言う。
 出来ない相談としても、それを口にするのだから、聞くマリューとすれば困るだけだ。
 だが、そういう我が儘を聞くことが出来る事を、マリューはどこかで喜ばしく思えていた。
 生真面目すぎた自分。
 それを壊してくれるムウ。
 軍では疎まれるような事を、ムウは平気でしてきた。
 勿論、戦果やPRの功績があればこそで、これが無能な兵士であるならば、即座に軍を追放されていたことだろう。
「軍人と言っても、所詮は人間。殺すことに麻痺することはあっても、人間をやまてしまう訳じゃない。所詮、言い訳じみたことではあるけど、生真面目に戦争することなんて、馬鹿げていると思わないか」
 いつだったか、ムウがそんな事を話した。
 それは、彼女の中にあった、軍と軍人という存在を根底から覆す。
「つまりは、真面目に戦争をする人間は、人間では無いと?」
 問いかけた彼女に、ムウは苦笑いを浮かべたものだ。
「多分ね。真面目に人を殺すなんて、正気じゃないだろう?それなら、真面目さなんて捨てた方が良いのさ。俺は、真面目に人殺しなんか出来ないから」
 マリューは、ムウによって変えられた自分を嬉しく思う。
 それは、戦争によって恋人を失い、戦争によってムウと結ばれたことを受け入れることでもあった。
 だからだろう、こうして時間の遅れを気にしてしまうことも、今では素直に受け止めることが出来る。


「それにしても、遅いわねえ」
 さらに遅れ、午後6時30分になっていた。
 マリューは、段々と遅い来る焦りに、苛立ちを露わにしている。
 腕を組み、組んだ右手の人差し指が、左の上腕を苛立たしげに叩いていた。
 彼女の側では、不機嫌になっていく上官を心配そうに見つめるミリアリアの姿が。
「ど、どうしたんでしょうねえ。ハ、ハハハ」
 気のない笑い声を上げるミリアリアであるが、心の中では泣いていた。

 カガリ〜早く来てよ〜

 そんなミリアリアの祈りが通じたのか、ホテルの入り口に何台もの大型地上車が横付けする。
 そこから、カガリが降り立ち、次いで、そうは見慣れぬ軍服を身に纏った男達が降り立った。
「来ましたよ!」
 喜び、声を上げて上官を見つめるミリアリアだが、いまだ不機嫌な表情をマリューが見せている。
「そうね。この私を待たせるなんて、良い根性してるわ」
 その言葉に、ミリアリアは泣きたくなった。

 ホテルのパーティー会場には、視察団とオーブの政府、軍関係者らが集まっている。
 幕僚総長とカガリが視察団を紹介し、視察団が挨拶をすることで、交換会は開始された。
 クラシック音楽が流れる中、そこかしこに人の輪が出来、視察団の関係者とオーブ側の関係者が談笑している。
 マリューはというと、出口に近い場所で、早く終われ、早く終われと、怪しげな念を送っていた。
 当然、そんな彼女の周りには、誰も寄りつかず、付き従うミリアリアだけが、魂の抜けた笑顔を見せている。
 交換会が開始して、30分が経過した頃、人の輪からカガリが姿を見せた。
「ゴメン、マリューさん。アークエンジェルを視察してた所で、思いの外時間喰っちゃって」
 そう言って謝るカガリを見てしまっては、マリューとしても怒ることが出来ない。
 しかし、時間はどんどん過ぎていく。
「このパーティー、何時に終わるの」
 既に、三日月亭に予約した時間を30分程超過していた。
 本来ならば自宅へ戻り、着替えを済ませた後、ムウと連れだってディナーを迎えたはず。
 それが、遅れに遅れているのだ、彼女の苛立ちは、爆発寸前にあった。
「え、えっと、後1時間くらい・・・かな。アハ、アハハハハ」
 頭を掻きつつ、視線を反らせたカガリ。
 盛大に息を吐き出すと、上着のポケットから携帯端末を取りだし、ムウを呼び出す。
 受話口から飛び出すのは、ムウの疲れたような声。
「遅いよ〜腹減った〜」
 そんな声を聞き、マリューがもう一度息を吐き出した。
「ゴメンなさい。あともう少し掛かるの。本当にゴメンなさい」
 謝るマリューを見て、カガリも申し訳なさそうな表情を見せる。
「・・・良いよ。マリューだって仕事なんだし、まだまだ、時間はあるから」
 聞こえてくるムウの言葉に、苦笑するマリュー。
 理解しているようでも、その口調には不満が感じ取れた。
「終わったら、直ぐに向かうから」
 話し終えたマリューに、カガリが何度も謝る。
「こんな大切な日に・・・ホント、ゴメン。謝っても仕方ないけど、ゴメン」
 オーブの代表代理から、これ程までに謝罪されては、マリューとしても何も言えない。
「仕方ないわよ。こればっかりは。ムウも待っていてくれるし、今は我慢しましょう」
 誰もが、この様なパーティーを楽しいとは感じていない。あくまで、外交上の儀式でしかないのだ。
 形式張っているだけで、なんの重要性も感じられないのだが、こういう事は、重要かどうかではなく、必要なのだということを役人達は言う。
 カガリもマリューも、その言葉には頷くしかない。こういう事でも、礼を失すれば、後々問題となることもありえる。
 付き合いというものは、何にしても面倒なのだ。


 それから40分が経過し、カガリが疲れた表情でマリューの元を訪れた。
「付き合わせてゴメン。もう、終わりに近づいてきたし、フラガの所へ行っても大丈夫だよ」
 カガリの言葉に、マリューはようやく笑みを浮かべる。
 それを見たミリアリアも、緊張をほぐすことが出来た。
 早速、ムウの元へ赴こうとしたマリューだが、その背後から声を掛けられる。
「ラミアス大佐。いいかね」
 聞き覚えのある声に、マリューは嫌な予感を覚えつつ振り返った。
 そこには、参謀総長たるマトゥ大将の姿が。
「な、なにか」
 答えるマリューの前に、2人の軍人が現れた。
 マトゥが連れてきたのは、視察団の一員である。
「いや、あのアークエンジェルの元艦長とお話がしたいとの、たっての希望でね」
 彼の言葉に、表面上は笑顔を見せつつ、内面では泣いていた。

『も〜う、どうしてこうなるの〜』

 作り笑顔を見せながら、自らの前から去っていくマリューを見て、カガリは「背中が泣いている」等という台詞を思い浮かべてしまう。

 なんとかマリューがパーティー会場を抜け出すことが出来たのは、午後9時を過ぎようとしていた頃だった。
「ウソ!?」
 思わず時計を確認してしまうマリュー。
 三日月亭の予約時間は当の昔に過ぎ去り、確認の為に連絡を入れたところ、ムウによって予約が取り消されたと知らされた。
 無論、キャンセル料は取られてしまうが、今はそんなことが問題では無い。
 ホテル前に待機するタクシーに乗り込み、急ぎ自宅へと戻る。
 20分後、タクシーが自宅前に停車し、車内から降り立ったマリューは、電気も点いていない官舎を見て脱力した。
 出掛けてしまったのだろうか。そう思いつつ、カードキーを通し、室内へと入る。
「ムウ?」
 呼びかけてみるが返事はない。
 仕方なく室内へと進み、リビングの電気を点けてみれば、ソファに身を沈めて眠りこけるムウの姿があった。
 その姿を認め、彼女は一つ安堵する。
 もしかしたら、怒って出掛けてしまっているのでは無いか、そんな不安があったのだ。
 眠る彼をそのままに、寝室へと赴き軍服を脱ぎ捨てる。
 疲れとパーティーの空気を落とそうと、下着と室内着を持ってバスルームへと向かい、熱いシャワーを浴びた。
 再びリビングへ戻ると、それまでの物音で目覚めたのか、ムウが盛大な欠伸と伸びをしてマリューを迎える。
「お帰り」
 そう口にする彼の表情は、完全な覚醒とは言えないものだ。
 ムウの姿を見て、苦笑しながら彼の元へと赴き、その唇へ口付けるマリュー。
 黙ってその唇の感触を味わったムウは、どうしたのかと問いかけた。
「ごめんなさい。あなたの誕生日なのに・・・」
 沈んだ口調のマリューを見て、ムウは笑顔を見せる。
「ああ、いいよ。まだ2時間位は残ってるし」
 時計は10時近くを表示していた。確かに、彼の誕生日は2時間ばかり残されている。
「でも、せっかく三日月亭でのディナーだったのに、もったいない事したわ」
 ため息を吐く彼女に、ムウは笑顔を見せ、キッチンへと向かった。
「どうしたの?」
 不審がったマリューが、彼の後に続いてキッチンへと向かえば、ムウは冷蔵庫から5枚の皿を取り出す。
 それらを順次温めると、ダイニングのテーブルに一目見てプロが作ったであろうことが分かる料理が並べられた。
「これって・・・」
 問いかけるマリューに、ムウが笑顔で説明する。
「一応、三日月亭に連絡してさ、料理だけしてもらったんだ。キャンセル料払いに行くついでに、料理だけ貰ってきたってわけ。こんな時間じゃ、あんまり量も食べられないけど、遅めのディナーにしないか?」
 勿論、マリューは大歓迎だ。むしろ、自分がしてあげなければならない事を、祝うべき相手のムウにさせてしまった事に、申し訳ないという気持ちが大きい。
「そういうことなら、ここから先は私がやります。あなたは座っていてください」
 これ以上、ムウに何かをさせるわけには行かないとばかりに、彼を椅子に座らせ、数枚の皿とワイングラスをテーブルに置き、小型のワインセラーから、

ちょっとだけ高価なワインを取り出す。
 そして、買っておいたプレゼントを取りに寝室へと向かう。
「気に入ってくれるといいけど」
 包装されたプレゼントを手にダイニングへ戻ると、食事の前に手渡した。
「プレゼントなんていいのに」
 そう言って照れる彼を、マリューは微笑ましく見つめる。
 ムウは、丁寧に包装を解いていく。中からは、古めかしい箱が現れ、その箱を開けてみた。
「へえ、こんな物、よくあったなあ」
 出てきたのは、懐中時計。余程のアンティーク好きでなければ、この時代に懐中時計を持つ者など居ないだろう。
 ムウにしても、アンティーク好きではないし、時計なども携帯端末などを利用しているので、それほど必要というわけでもなかった。
 では、マリューは何故この懐中時計をプレゼントしたのだろうか。
「なんだか、その翼が気になって」
 確かに、懐中時計のガラス面を隠す蓋には、羽が刻印されている。
「気に入らなかった?」
 少々不安気に問いかけるマリューであったが、受け取ったムウは首を横に振った。
「そんなこと無いさ。羽のデザインがされてる時計なんて、懐中時計を探すだけよりも大変なのに。大切に使わせて貰うよ」
 笑顔を見せたムウに、彼女も安堵のため息と共に微笑みを見せる。
「それを見つけたのって、街にある小さな雑貨屋さんなの。いろいろ有ったけれど、その時計が呼んでるみたいな気がして」
 マリューがその時の事を思い出しつつ、時計に視線を移した。
「まあ、何にせよ、マリューからのプレゼントなら、どんなものでも嬉しいけどね」
 2人見つめ合い、次いで笑い出す。
 大いに予定が狂ってしまった誕生日であったが、2人にとってはさしたる問題でも無いようで、日付が変わってもワインを飲みつつ会話を楽しんでいた。


「あれ?教官、そんなの持ってるんですか?」
 翌日、士官学校の教室で、教卓の上に置いてある懐中時計を見つけた学生が、興味を引かれた視線でムウに問いかけている。
「どうだ、渋いだろう」
 自慢げに見せびらかすムウではあるが、学生達の反応はまちまちだ。
「なんだよ」
 そんな学生達の反応に、不満気な声を上げるムウ。
「でも、教官には渋いというか似合わないっていうか・・・」
 なるほど、30歳に手の届くムウではあるが、外見は若々しい。それに、30歳と言っても、社会においてはまだまだ若い。
 懐中時計が似合うとなれば、40代50代と言ったところだろう。
 しかし、そんな事はムウにとって大した意味がないのだ。
 似合うかどうかではなく、誰から贈られた物か、ということが重要である。
「え〜い、うるさい!これはマリューから貰った大事なプレゼントなの!だから、俺にとっては最高の宝物なのだ!」
 と、ムウの口からマリューという名が出た瞬間、学生達の反応が目に見えて変わっていく。
「ええ!?ラミアス大佐からの贈り物なんですか!?」
「くっそー!恋人とはいえ、ラミアス大佐からプレゼントを貰えるなんて!」
「教官!このペンと交換して!」
 羨望の言葉とともに、意味不明な事も飛び出したが、何度か士官学校を訪れた彼女に男子候補生が、なんらかの感情を抱いたとしても不思議ではない。
 多くが、ムウに対して「羨ましい」という物であるので、この反応は当然のことだ。
 物欲しげな視線を送る学生を見て、ムウは何とも言えない優越感を味わう。
「ふっふっふ、マリューからプレゼントされた懐中時計だ!者共、ひれ伏せ!」
 だが、たかだかプレゼントにひれ伏す様な学生が居る筈もなく、声を上げたムウを残し、教室から出ていく学生達。
「あ、あれ?」
 取り残されたムウは、人の居なくなった教室で寂しく佇む。
「くっそー覚えてろよ。地獄の訓練を課してやる」
 学生達の不運は別にして、ムウは懐中時計を見つめると、何度目とも分からない笑みを浮かべた。
 誰かにプレゼントされた事など、数え切れないほどにある。
 だが、このプレゼントだけは忘れないだろう。
 これから、共に時を刻んでいく時計。
 そして、この時計の時間と共に歩んでいく自分とマリュー。
 等しく時は流れ、その時の中で出会い、愛し、暮らす。
 どれだけの時間を過ごせるのだろうか。それは分からないが、過ごせるだけの時間を大切にしようと思う。
 2人の時間は、まだ始まったばかりなのだから。


Fin

[ ぐらん様のコメント ]

ムウさんの誕生日記念SSです。
早い段階から「ああ、ムウさんの記念SS作らなきゃな〜」とは考えていましたが、なんだか遅れに遅れてしまいました。
しかし、今回は誕生日前に掲載出来たので、良しとしましょう。
マリューさんの記念SSにも出ましたが、小さな雑貨屋は、ムウさんがオルゴールを買った店と同じ、という設定です。
途中、だらけた部分があったりしますが、何日にも分けて書いたので、自分自身、何がどう繋がっていくのか不明になった為だったりして。
とりあえず、こういう話を書き上げましたので、どうぞご覧になってくださいませ。




ぐらん様からステキな小説をゲットしてきました♪
「あくまで邪魔するというなら、爆撃してやろうか」
と物騒なこと言うムウ兄と、
『はやく終われ〜』と怪しげな念を送るマリュさんが
いかしてます!(笑)


素晴らしい小説,ありがとうございます,ぐらん様!!



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last update 2003/12/03

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