■ しえる様のフリー小説 ■


THE 29TH NIGHT OF NOVEMBER

11月29日の夜。
本来ならば、今ごろは予約しておいたレストランで愛する妻と共に過ごしているはずだった。
すでに時計は23時を過ぎてしまっている。
「はぁ」
幾度目かの溜息が口をつく。


途中まではよかったんだ・・・・
今日の予定はマリューから言い出してくれたもので。
俺は自分の誕生日なんか別にどうでもよかったのだが(マリューと二人で過ごせるなら)。
マリューは、雑誌やらネットやらで一生懸命、二人で過ごす場所を探してくれていて。
何だか妙に気合いが入っていて、一度は辟易してしまったが、それも俺のためなんだ・・と思うと勝手に頬が緩んでしまった。

結局は、整備班の女性仕官お勧めの洒落たレストランで、ということになったのだが。


まさか、マリューが出張になるなんてなぁ・・・


本来ならエリカ・シモンズ主任が出向いて行うはずだった、新しいエネルギー開発のプレゼンテーション。
ところが、二、三日前、急に彼女の息子が入院してしまい、マリューにお鉢が回ってきたのだった。
 
そういうわけで、マリューは明日の朝までオーブには帰ってこない。 


電話でその事をマリューが告げたとき、流石にがっかりしてしまった。
マリューの所為じゃないのに、マリューがものすごく申し訳なさそうに謝るものだから、俺はものすごく悪いことをした少年のような気分だった。

今夜の予定が流れてしまって、マリューのいない家に帰る気にもなれず、半ばやけっぱちに残業を引き受けてた。

そんな事を考えながら、茫漠と暗い空を眺めていると、寂しげな明るい音楽が鳴り響いた。
頭をかきながら、軍服の内ポケットから携帯を取りだし、電子音とともにボタンを押す。
音は鳴りやみ、また静寂があたりに響く。
そして、僅かに明るみを増した携帯画面に目をやると、ムウは苦笑しながらひとりごちた。

「まったく、キラのヤツも相変わらず律儀だな」

携帯画面に踊る、「誕生日おめでとうございます」の文字。
その後にいろいろと、おためごかしに近い言葉が並んでいるが、まあ、それがキラの性格というものなのだろう。
もう少し若かったなら、これでも喜んでいただろうが、今の疲れている俺のささくれだった神経には少々イヤミに感じてしまう。
あいつは結局、あのピンクのお姫様とくっついたようだ。
もちろん、そのこと自体は喜ばしいことだと思っているのだが、こういう時はさすがにひがみたくもなる。
こうやって、誕生日だというのに、残業で遅く、マリューのいない家へと帰っている今の俺。
頭をかくという行為を何度も繰り返しながら、俺はそのメールを見続けていた。


ピッという音を立てて携帯を閉じ、また空を見上げる。
あのキラのヤツも、すでに学生ではない。
キラだけではない。サイもミリアリアも・・・かつて学生クルーとして共にあの戦場を駆った者たち。


サイとミリアリアは再びオーブ軍属となっている。
そしてキラも、カガリと共にオーブ再興を目指して各地を飛び回っている。


溜息をついて、首を振る。
どうやら、今日は本当に疲れてしまっているようだ。
感傷的な気分に浸るなぞ、自分らしくもない。
苦笑して、頭をかいていると、横から、明るい声がかかった。

「こんな時間まで、仕事ですか。フラガ少佐?」

そちらの方へと顔を向けると、ミリアリアの姿があった。
彼女はカレッジを卒業後、ここで管制の仕事をしている。

「いや、今帰るところ。お嬢ちゃんは夜勤?」

などと、当たり障りのないことから始まり、なんでもない会話をする。
いつもなら、誰彼ともなく楽しませようとするのだが、どうも今日はそのような元気もないらしい。
頭の中と、口から出る言葉とが、あやふやで、どこかずれているような感じで話している。
口調は元気なのに、頭の中には疲れが溢れていた。

ふと、ミリアリアが、俺の手の中にある携帯に目を移す。
俺は苦笑しながら、先ほどのメールを彼女に見せる。
彼女もそれを見て、口元に苦みのある笑みを浮かべる。
 
「キラらしいといえば、それまでですけどね」

そういいながら、苦笑する彼女。

「まったく。まあ、まだ若いというところでしょ」

肩をすくめながら、返す俺。

「そうだ、良い事教えてあげます。少佐。」

そう言ってごにょごにょっと俺の耳元に何かを囁く。

「え、マジで!?」 
 
「だから、早くお帰りになった方がいいですよ。ほんとは私から言っちゃいけなかったんでしょうけど・・・少佐、あんまり落ち込んでいらっしゃるもんだから、 私からのプレゼントです。」

そう言って彼女は片目を瞑る。

俺は居てもたっても居られなくなった。
 
「プレゼントをありがとな!お嬢ちゃん!」
 
俺は振り返りながら叫んでいた。

「どういたしまして!私の誕生日、期待してますよ〜」

暗闇にミリアリアの声が響きわたっていた。



急いでエレカに飛び乗って、家路を急ぐ。いつもならおざなりに見える帰路が、今は自分を歓迎しているように思えるから不思議だ。

そんなことを考えているうちに官舎に到着。
 
ドアを開けるのももどかしい。


ふと、部屋に人の気配があるのに気付く。

マリューが帰ってきているはずもない。俺がミリアリアから聞いたのはマリューからの心のこもった贈り物の話だ。
必ず今日届いていると言っていたはずなのに。ドアの前にそれらしき物の姿もない。

もしや、侵入者か?

俺は身を固くする。
 
慎重にドアを開けた。と、同時に何かが俺の首っ玉に飛びついてきた。

「お帰りなさい! お誕生日おめでとう!ムウ!」

「マ、マリュー?どうして・・・・?」

俺には訳が分からなかった。明日にならないと帰らないはずのマリューがなぜ?

「ふふっ、カガリさんが今日の最終便のチケット手配してくれてたの。どうしても、今日中にお祝いしたかったから・・・・・。」

俺は涙が出そうなくらい幸せな気分だった。
思い切りぎゅうっと、マリューを抱きしめる。

「ありがとう、マリュー。」



ミリアリアから聞いてはいたが、マリューの贈り物は・・・・・手編みのセーターだった。
黒のハイネック。いかにも俺専用という感じのたっぷりとしたセーター。
マリューが最近何かごそごそしているな、とは感じていたけれど、まさか俺のためだったとは・・・俺の為にわざわざ時間を割いて、作ってくれたんだ。
会ってない時にも、俺のこと考えてくれてたって、証みたいなもんだよな。

ありがとう、マリュー。ほんとなら毎日着たいよ。ずーっとマリューの想いと一緒に居られるんだから。

ありがとう、マリュー。


隣で泥のように眠るマリューの髪をそっと撫でる。
無理・・・させちまったかな。あんまり嬉しかったもんだから。
彼女は今夜帰ってきたばかりだというのに、なりふりかまわず押し倒してしまった。

はっきり言って、誕生日なんて気にする性質じゃないし、あいつや親父のことを考えると複雑な気分になる日だ。

でも。

君が変えてくれた。俺が今在ること。俺が生まれてきた日。それがあるからこそ、君に出会えた。そして愛せた・・・・・


思いついて、携帯を取り出す。
そして、キラの例のメールに返信する。

「三十路になるのも、いいもんだぜ」

と。


Fin

[ しえる様のコメント ]
やっぱり、兄貴にとっての一番のプレゼントはマリューさんですよねvv



しえる様のサイトからすかさずゲットしてきました♪
しえる様のコメントの「兄貴にとっての一番のプレゼントはマリューさん」って
まさにそのとおり!と膝を打ってしまいました(笑)。
何気にミリアリアがしっかりものでいい感じです♪

素晴らしい小説,ありがとうございます!しえる様!!



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last update 2003/11/22

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