え り あ し |
愛しくて仕方なかった。 人ごみの中を、歩くのは苦手。 だって、小さな私は簡単にその波に飲まれてしまうから。 昔はそうだったわ。 「手を繋いでいれば、はぐれないでしょう?」 くすくすと笑いながら、あの人はそう言った。 手を繋ぐ勇気がなかったの、あの頃のわたし。 恥ずかしくて仕方なかった。周りが同じことをしていても、自分だけ見られている気がしたの。 下を向いてしまう私は、簡単に迷子になってしまうの。 少しだけあげた視線には、彼の後頭部が映る。 それが安心する。だけど、ちょっと照れてしまうの。 「恥ずかしかったのね、まだ恋をしていることが」 そう言って笑うそのひとは、とても綺麗で私の憧れ。 「先っ、行っちゃわないでよっ」 ぎゅっと服を掴むと、金髪の頭が少しだけ振り返る。 「早い?」 「あんたとの身長差考えてよっ」 上にすくすく伸びてる男の子と、もう身長はこれ以上のびないだろう私とじゃ歩く速度は違う。 「ほら」『ほら』 すっと差し出される手を、私はじっと見下ろす。 耳には、もう過去になってしまった声がわずかに届く。 「なに?」『なに?』 わざと問いかけると、目の前のひとはくくっと小さく笑って自分から手を繋いできた。 「迷子防止。それに、あったけぇ」『手、繋がない?』 『・・・大丈夫』 昔だったら、この手はつながれていなかっただろう。 いまは、少し強引な彼はこちらの意思など最初無視するように手を繋いでしまう。 振り払わないのが答えだというように。 「ミリィの手、あったけぇ」 「手袋、してこないからよ」 「仕方ねぇじゃん。出てから気がついたんだからよ」 「ばか」 ぶらぶらと歩きながら、ふたりはお宮参りに来ている人を見回す。 「人、多いね」 「そうだなー」 視線をあちらこちらに向けるミリィの手を引いて、ディアッカは目立つ頭を探す。 自分と同じ色の髪と、自分よりは宇上背のあるその人物。 すぐ見つかりそうなのに、人ごみの多さで見つからない。 「マリューさん、もう来ているかしら」 「お参りするなら来てるだろーけど」 「ふふっ、ムウさん寒がりだもんねー」 制服のしたに、水色のアンダーにその下にもTシャツを着ていた気がする。 その割にはだらしない着方をよくしていたので、ほんとうに寒がりかは分からないけれど。 マリューがそんなことを言っていた気がしないでもない。 「あっ、いた」 「ミリィ、こっち」 ディアッカが声をあげるのと一緒に、マリューもこちらに気がついて手を挙げる。 ふわふわと手を振るマリューは両手には、暖かそうな茶色の手袋をしている。 その横にいるムウは、コートの上にマフラーを巻きその中に口を埋めるように首をすくめている。 肩をすくめたまま手を振っているムウに、近づいてミリアリアはくすっと笑った。 「こんばんわ、ムウさん。寒そうですね」 「ああ。こんばんわミリィ。・・・さみぃよ、まじで」 「年だなぁ、おっさん」 くくっと笑うディアッカをムウは睨みつける。 いつものように手が出ないのは、寒くて出す気にもならないからだろうか。 「さぁ、じゃぁお参りしてきましょ。今年はいい年になるように」 艦長だったころのように、そう言って仕切るとマリューはムウの腕に手を絡めて歩き出す。 「寒いの?マリュー」 「ふふっ、ムウが寒いんでしょー?」 くすくすと笑うマリューは、首をすくめているムウにぎゅっと抱きつく。 それにくすぐったそうに笑いながら、ムウはマリューの腰をだき歩き出す。 「当てられるなぁ・・・。もう」 前を歩くふたりの姿に、ディアッカが頭をかく。 隣を歩くミリアリアも、ちょっと照れた様子でふたりの背中を見る。 「ほんと、仲がいいね」 「だよなー。艦にいたころからだろ」 「こっちが照れちゃうよね」 首をすくめるようにして歩いているディアッカの手をミリアリアがちらりっと視線を向ける。 手袋をしていないその手は、ムウと同じく寒そうだ。 近寄ったミリアリアは、そのままぎゅっと手を握った。 驚いた顔をして振り返るディアッカから目をそらしてくちびるを尖らせる。 「なによっ?迷子になるでしょ」 「はいはい。ミリィの手あったかいな」 「手袋代わり?」 「いいじゃん、それよりあったかいし」 くすくすと笑い声を漏らしながら、ディアッカはぎゅっとその手を握り返す。 その嬉しそうな顔をちらりっと見上げ、ミリアリアもぎゅっと手を握り返す。 見上げた視線には、ディアッカの伸びたえりあしが映る。 むかし、隣を歩いた人よりもずっと上にある顔も。 みあげたえりあしも、前とは違うけれど。 あの頃よりもわたしも成長したけれど。 きっと抱いた気持ちは一緒。 「ふふ」 「どうしたの、マリュー」 後ろを歩いているミリアリアとディアッカの様子を肩越しに振り返って笑うマリューに、ムウが聞く。 小さな笑みを見せるマリューは、ムウの腕にしがみつきながら楽しそうに笑う。 「ミリィ、ディアッカくんのことちょっとづつ受け入れているようね」 「ああ、そうだな」 「手を繋いで歩けるのね」 「マリュー?」 「ふふっ、いいのよ。女の子の秘密よ」 楽しげにマリューは笑い、さきほどよりもぎゅっとムウの腕に抱きつく。 そのぬくもりは柔らかく暖かい。 ふっと視線を和ませたムウは、一緒に歩くマリューを抱きしめる。 「何お願いしようなかー」 「変なこと言わないでよっ。いいわね」 「えー」 前で、騒いでいるふたりにミリアリアとディアッカは、視線を見交わし笑った。 Fin |
[ 夕維伽様のコメント ] お正月SS第二弾!SEEDです。 ほんとは、ムウマリュのはずがかき始めたらディアミリ?風味に・・。 きっと、かき始めた瞬間が「aiko」の「えりあし」だったのがいけないのか。 ミリィが過去を思っている場面はもちろん、トールです。 ディアッカとミリアリアって意地を張りながらも、徐々に距離を詰めるというか。 そんな感じです。 |