■ kiki様からの頂もの:二周年記念フリー画「フラマリュ・第一弾」 ■
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「ね、ね。このくらいシンプルなのはどう?」 「うーん。レースが多いよりずっといいけれど…ちょっとさびしすぎない?」 「そうねぇ。ちょっと深めにあけておいて、そこに大き目のパールのネックレスをつければどうかしら?せっかく胸元綺麗なんだし。旦那様、喜ぶわよ?」 「……あんまり露出度高くしすぎると、逆に『見るな!』って騒ぎそうだけどなあ……」 女三人寄ればかしましい。とは言うが、本当にそうだわ。 椅子に座ってぐったりした表情でマリューは思った。口に出すと「そんなことない」と大反対を受けそうだったので、思うだけに留めたが。 目の前ではミリアリアとフレイ、それにエリカが和気藹々とドレスのカタログと見本を見比べながら喋っている。 少し離れたところ―――マリューの左側に、同じように椅子を置いてげんなりした表情のカガリが深々とため息をついた。 「ごめん、マリューさん。まさかここまですごいことになるとは、思ってなかった……」 眉を下げて謝るカガリに、「よっこいしょ」と椅子に寄りかかっていた身体を起こしながら、マリューは苦笑した。 「カガリのせいではないでしょう?それに―――みんな楽しそうだから、いいわ。着せ替え人形になるのは結構大変だけど」 既に何着目になるかわからないウェディングドレスを身に纏ったマリューは、肩をすくめた。 事の発端は、カガリの乳母であるマーナの一言から始まった。 「ラミアス様、ドレス選びはもう始められました?」 アークエンジェルの修理状況を報告しに来たマリューに紅茶を出しながらそんなことを言ったマーナに、マリューは首を横に振った。 「いいえ。ムウが、『これがいい』っていうのを選んでくれましたけれど、まだ実際には……」 でも形が決まればあとは実際ドレスを見に行って選べばいいだけだし、とマリューが言うと、マーナがきりりと眦をあげた。その表情に、カガリが「まずい」という顔をする。 「あら駄目ですよ、そんな呑気なことをおっしゃっていては!だいたいラミアス様の体型に合うものがなければいちから作らなければならないのですよ?それなのに、あと1ヶ月もないじゃないですか!?」 「は、はあ、そうですねぇ」 マーナの勢いに押され、マリューはただ頷くばかり。そんなマリューの様子に、「このままではいけない」と思ったのか、マーナはきっとカガリに目を向けた。 「お嬢様!明日一日、ラミアス様にお仕事を頼まないでください。ドレスデザイナーを呼んで、作ってもらってしまいましょう!」 「え、ちょっと、マーナさんっ!」 さすがにこれには驚き、マリューが断ろうと口を開いたところ、諦めた表情でカガリが言った。 「いいよ」 「カガリーっっ!?」 「だって明日は特に大きな用事、ないし。どうせいつかはドレス選びの日を作らなくちゃならないんだったら、明日やってしまえばいいよ」 それに、とカガリは肩をすくめてマリューを見た。 「マーナがここまでやる気だと、私には止められないからね」 本格的に諦めに入ったカガリの口調にマリューはがっくりと肩を落とした。 そして当日。オーブ官邸に来るようにと言われてのろのろと向かってみた先には。 「な、なんであなたたちがいるの???」 所狭しとウェディングドレスがディスプレイされた部屋にいたのは、カガリとマーナだけではなかった。 「マリューさんがドレス選びをするって聞いたから、及ばずながら手助けに、ね?」 にっこり笑うミリアリア。手に持つカメラをどうするつもりなのかは聞くまでもないだろう。 「どれが似合うかっていうのは、本人じゃ分かりにくいんですよ。だから客観的に見られる人間がいたほうがいいんじゃないかって、ミリィと話したんです」 こちらもにこにこ笑いながら分厚いカタログを抱えたフレイ。 「一応、経験者としてアドバイスができれば……と思ったのよ。うふ」 絶対楽しんでいる、としか思えない笑みを浮かべたエリカ。 そして彼女たちに「あーでもないこーでもない」と色々ドレスを着せられ、ベールをつけられ、アクセサリーを選ばれ―――かれこれ、もう2時間になる。 「お疲れでしょうけれど、人生で一度しか着ないものなんですから。後悔しないものを選ぶには時間も必要ですよ?」 つかれきったマリューにアイスティーのグラスを差し出しながらマーナは笑った。 彼女たちに声をかけたのもマーナだった。曰く「全然知らないデザイナーに見てもらうより、気心の知れた友人たちに選んでもらったほうがいいですよ?」という心配りからだった、ようなのだが―――。 「ミリィとフレイとエリカさん、って……ある意味最強トリオを揃えなくても―――」 はぁ、とため息をつくマリューへ、カガリがぽつりと言った。 「いや。ジュリたちも来たがったんだが―――、それは止めさせた」 「………ありがとう」 要するに、皆結婚というものに憧れを抱いているお年頃(既婚者であるエリカは除く)で、マリューはいいカモだったのだろう。 もちろん、純粋に祝ってくれている気持ちもあるだろうが―――この状況では、「楽しんでるわねー」としか思えないマリューだった。 でもまあ、こういうことに心底楽しそうに笑えるようになった少女たちの姿を見られるということは、幸せなことなのだろうなあ、とマリューは思う。フレイもこうしてミリアリアと笑いあえるようになるのに少し時間はかかったが、今ではとてもいい表情を見せる。 そんなことを思って彼女たちを見ていたら、「なんですか?」とミリアリアが首をかしげた。それに「なんでもないわ」と笑って手を振り、マリューは「さて、と」と立ち上がった。 「座ってばかりじゃ進まないし―――もう少し、彼女たちにもまれてくるわ」 そう言ってカガリに笑いかけると、彼女は立ち上がって「頑張ってね、マリューさん」と笑って部屋を出て行った。 「デザイナーも本日は待機していますから、デザインが決まりましたらお呼びくださいね。サイズを測るまでは、今日中に終わらせてしまいましょう」 にっこり笑うマーナに、マリューは頷いた。 「わかりました。色々とすみません、マーナさん……ありがとうございます」 頭を下げるマリューに、マーナは母親のような優しい笑みを浮かべて頷き、カガリの後について部屋を出て行った。 それからさらに1時間経過し―――。 「なんだぁ、まだ選んでる途中なのか?」 戻ってきたカガリが呆れた口調でそう言った。マリューは先ほどよりも疲れた表情で振り返り、苦笑する。 「ドレスとベールは決まったわよ?あとはアクセサリーだけですって」 最早他人事の口調で言うマリューにカガリは苦笑し、上から下までマリューの姿を見た。 「ああ、似合うなあ、ほんと。それ、フラガが選んだのに一番近いデザインだな」 カガリの指摘に、少しだけ頬を染めてマリューは頷いた。 「色々着たんだけれど、やっぱりこの形がいいみたい。それに、ムウが折角選んでくれたから、やっぱり、ね」 生涯たった一度の装いだ。自分自身と、それから、これから先共に歩く相手が気に入ったものを着たいと思うのは、当たり前なのかもしれない。 だから、決めるのがこんなに大変でも、がんばれるのかしら、とマリューは微笑んだ。 そのマリューの言葉に、カガリは急に後ろを振り返り、「だってさ、旦那様?」と声をかける。その呼びかけに、マリューは一瞬誰のことだかわからず―――そしてわかった瞬間、顔を真っ赤にして一番近くのカーテンにダッシュした。 その花嫁姿に似つかわしくない走りっぷりを唖然として見送り、カガリは少しだけ開いていたドアから外をのぞく。 「どーする?」 入るんだろ?と促す。そこには壁に寄りかかり、珍しくも赤くなって「やられあなぁ」と口元を覆うムウがいた。 カガリが先ほど席をはずしたのは、ムウと護衛部隊についての打ち合わせがあったからだ。それが終わった後、空挺部隊のほうへ戻るだけだと言ったムウを引き止めたのはカガリだった。 『今、ドレス選び中なんだけどさ。見に来る?』 そう言うと、ムウは一瞬困ったような顔になり『そーだなあ。すっごく見たいけれど、』と言った。 『当日まで見ないほうが、花嫁さんって嬉しかったりしないかなあ?』 ムウの言葉に、カガリは「ああコイツ本当にマリューさんが大切なんだなあ」としみじみ感じた。マリューの気持ちを最優先に考えて悩んでいるムウに、カガリはにこりと笑った。 『当日もたった一回だけど。大切な人との結婚式で着るドレスを選ぶ事だって、たった一回だけのことじゃないか。だから、いいんじゃないか?』 マリューさんも喜ぶと思うけど、というカガリの言葉に、ムウは頷き―――そして今に至る。 扉の外にいたのは、一応カガリからムウが来た事を告げてもらうまでは見ないほうがいいだろう、と判断したからだったが―――思いもかけないマリューの想いをこっそり聞くことになってしまった。 「やだムウさんきたの?じゃあ、アクセサリーもつけますか?マリューさん」 「いっそのこと選んでもらったほうがいいんじゃないかしら」 「マリューさん。そんな隠れなくても……すっごく綺麗なんだから堂々としていて下さいよ」 女性たちの声を聞き、ムウは思わず噴出した。そしてそのまま笑いながら部屋へと入る。 やはり微笑んだままのカガリの頭をくせのように一度くしゃりとかきまぜ、そして部屋をぐるりと見回した。 ドレスが並んでいるまわりに立っていたエリカがくすくす笑い、フレイとミリアリアはこっそりと「あっち」と指をさす。 そこは、不自然に窓際のカーテンが膨らんでいた。 「マリュー。子供のかくれんぼじゃないんだぞー?」 ムウは笑いながらそこへ近づく。見るからにびくりと身体を震わしたのが、カーテン越しに見えて、ムウは足を止めた。 「それとも、さ。今は俺に見られたくない?」 それならこのまま帰るけど、と告げると、ようやく白い手袋に包まれた手がカーテンの中から出てきた。次いで、髪をアップにし、ベールをつけた頭がのぞく。 「―――笑わないでね?」 上目遣いにそう言うマリューが可愛らしくて、ムウはひょいとマリューの手をとった。 「あ」 よろめいて反射的にカーテンを手放し、数歩前に出たマリューの身体を、ムウはひょいと両手で抱き上げた。 「ム、ムウ?」 ムウは、吃驚して目を見開くマリューの姿を頭から足元までじーっと見た。その視線に、マリューは居心地が悪そうに身じろぎする。 全身を見て、最後にマリューの顔に目を戻したムウは、赤い顔をした未来の花嫁ににっこりと笑いかけた。 「よく似合ってるよ、マリュー」 その言葉に、恥らうように視線を一度逸らしてからムウの目を真っ直ぐに見つめてマリューは小さな声で聞いた。 「……ホント?」 「本当だって。このまま教会に連れていきたくらいだ」 可憐なマリューの姿に、ムウは本気でそう言った。むしろ、このまま抱きかかえて家まで連れて帰りたいくらいだった。 「……馬鹿」 ようやく微笑んだマリューに、ムウは「馬鹿でいいの」と笑い返す。そんなムウに、マリューは「ありがとう」と言って、額にかるくキスをした。 「中佐、あれでタキシードでも着ていたら、まさしく結婚式ですわねぇ」 遠目で未来の熱々夫婦を見守っていたエリカがこっそり笑いながら言った。ムウは仕事中だったので、軍服―――しかもいつもと同じく、袖をまくりあえげた状態―――のままだったのだ。軍服でも正装だったらよかったんだけど、とエリカが考えている横で、ミリアリアとフレイは、 「いいなあ、マリューさん……」 「ほんとう……いいなぁ……」 と幸せな雰囲気を纏うふたりの姿に見惚れていた。 カガリもそのふたりの幸せな雰囲気を満足そうに見ていたのだが。 「さあ、次はフラガ様の番ですわね!」 腕まくりしてやる気満々のマーナの言葉に、思わず「フラガ、頑張れよ……」と心の中でエールを送ってしまった。 End... |